いぬぼく 小説
□メゾン・ド・章樫
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メゾン・ド・章樫。
私は今、そのマンションの前に立っている。
ー今日から、ここが私の家。
太陽に照らされ薄く金を放つ長い髪をなびかせ、ほぅ、と吐息を漏らした。
近くに住む主婦たちが好き勝手うわさしているのに耳を傾ける。
先週入居した可愛いけれど性格の悪い名家のご令嬢?
それってもしかして…
「注目の的ですね。一週間ほど前にも、入居者が入ったばかりなんですよ。」
引越し業者が荷物を運び出しながら話しかけてくる。
「…そうですね。季節的にも、お引越しシーズンなのかもしれませんね。」
柔らかに笑みを返し、莉桜は答えた。
そしてクルリ、と髪を翻し、噂話に花を咲かせる主婦たちの元へ向かった。