いぬぼく 小説
□妖館ウォークラリー
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私が手を伸ばしたことに気付いて小さな狸はさらに暴れ、彼の手から逃れるとぽんっと先ほどの可愛らしい少年の姿になった。
「わぁ、すごい!」
思わず口に出すと、驚いたように目を丸くして、こ、これくらい普通だぜ!と少しドヤ顔で答えてくる。
あ、少し嬉しそう…可愛い…!
「あ、…私、桜鎌莉桜です!最近妖館に越してきました。」
よろしくお願いします、と笑顔で挨拶をする。
「お、おう、し、仕方ねーから、よろしくしてやるよ!
俺は1号室の住人、渡狸卍里!不良(ワル)だぜ!」
不良なの?こんなに可愛いのに…?
そう思ったがそれは口に出さないでおく。
「ぷーふーふー、渡狸照れてる〜
莉桜たん、よろしくね〜☆」
「莉桜たん!?は、初めて呼ばれた…!
それと、…えぇと、卍里と…残夏って、呼んでいい?」
名前の呼び方を改めて問うのはなんだか気恥ずかしい。
「べ、別にい『もちろんさっ☆』
遮るなあああ!と叫ぶ卍里にぷーふーふーと流す残夏。
面白い人たちだなあ…
「とーこーろーでっ、莉桜たん、君って珍しい先祖返りだよね?」
…やっぱり。
人魚の先祖返りなんて早々見ないよ〜。
そう言う残夏を見て推測は確信に変わった。
「残夏こそ、随分珍しい先祖返りじゃない?」
一瞬、彼の目が大きく見開かれた。
「百目の先祖返り、でしょ?」
「……、よく分かったねー、莉桜たんすごーい☆」
平然を装う残夏。
ちょっと意地悪に言い過ぎたかな…
「それよりー、さっきから莉桜たん、渡狸のこと可愛い可愛いってずーっと思ってるんだよねぇ。ボクちょっと妬けちゃうなぁ〜」
「なっ!?」
「おい、莉桜!てめぇ!」
なんで言っちゃうのよーっ!と残夏を両手で軽くぽかぽかたたく。絶対怒ると思ったから言わなかったのに!
彼はクスクス笑ったまま何も答えない。
「莉桜も俺を馬鹿にするんだな…!俺が…俺が…豆狸だからってー!」
ぽんっと音がしてたま小さな狸の姿になった卍里。
ああもう、我慢出来ない。
「…可愛いいいいっ!!!」
バッと腕を広げて卍里に飛びつく。
ぎゅうっと抱きしめて、ふわふわの毛に頬ずりをする。
「んー♡幸せ…♡」
「馬鹿野郎!離せ!おい!莉桜!」
そんな様子を眺める残夏は、笑顔を貼り付けたまま何かを考えている様子でどこか上の空だ。
やっぱり言いすぎたかもしれない。本人は気にしている力だってあるはずなのに…。現に、私だって…。
そこまで考えてはっと我に返る。
こんな過去、周りに見せるわけにはいかないわ。しっかり鍵をかけて、みんなにも、残夏にも、…私にさえ見えないところへ閉じ込めてしまおう。
そう思い、卍里をぎゅっと抱きしめた。