君と私の距離は…?
□君
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俺様、猿飛佐助には前世の記憶がある。
それは俺様だけじゃなくて、あの時代を生きた何人かの人もだ。まさか、全員転生してまたこうして廻り逢うとは思いもしなかった。
「やぁ、佐助おはよう」
「!?…桜ちゃんおっはよー!」
「?深刻そうな顔をしてたけど何かあったのかい?」
「んーん!なんでもないよっ」
相川桜。この娘も同じ戦国時代を生きていた。そして、俺様の想い人であり恩人だった。
桜ちゃんとは去年、この婆娑羅高校で出会った。もちろん、本人は前世の記憶なんてないけどね。
「佐助。今日は数学の小テストがあるそうだけど知ってたかい?」
「エッ!?俺様それ知らないんだけど…!まぁ、俺様完璧だからっ?そんなのラクラクに解けるけどねー♪」
「死ね」
「ヒドイっ!」
俺様と桜ちゃんは前世でもこんな感じだった。いつも俺様の支えになってくれた。出会いは俺様が敵兵に殺されそうになってもう生きることを諦めた時だった。そんなとこに桜ちゃんが来た。
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『あー!クッソ!敵多すぎだろ!』
俺様は偵察に来てたのを偶然バレてしまって、追いかけられていた。
そして、敵に囲まれた。
『なぁんで、今日に限ってヘマをしちゃうかな〜』
戦いながらそう呟く。俺様はあまりの敵の多さに不利だった。
そして、
『武田の忍の首!しかと頂戴する…!!!』
後ろから狙われた。
『!!?(避けきれない!)』
そう思い、もうダメだと目を瞑り諦めたその瞬間…。
ザシュッ!!
『ウァァァアア“ア“…!!』
肉を裂く音と男の断末魔が響いた。
俺様はソッと目を開く。視界に映ったのは大鎌を持ち血を浴びた女がいた。女は俺様を見下ろす。月光に照らされる彼女は血を浴びてるはずなのにそれすらも美しく思い見惚れてしまった。
『……立てるかい?』
その言葉にハッとして、ようやく我に返った。そして、目の前の女を睨み付ける。
『アンタ誰…?なんで、俺様なんかを助けたのさ』
『…助けたいと思ったから、かな』
『………は?』
『とにかくその話は後にして、この目の前のやつらをどうにかしないかい?』
『………そーだね』
そして、俺様は名前も知らない女と敵を次々と倒していった。
敵が全員片付き、俺様達は少し場所を移動した。
『あー、えっと、倒すの手伝ってくれてありがとね』
『いや、別に』
『それで……なんで俺様を助けたのさ。“別に死んでもよかったのに”…』
俺様が少し殺気立ち、自嘲気味に笑いながらそう言うと女が言った。
『それは君が忍だからかい?』
『うん』
『なるほど………………フッ』
『ちょ、何笑ってんの!?』
『いや、だって君の目にはそんなこと書いてないからね』
『目…?』
『あぁ、君の目は生きたいと言ってる』
『…意味分かんないんだけど。頭オカシイの?アンタ』
俺様は正直とてもイラついていた。よく知らない女にこんなに自分のことを語られるとは思いもしなかった。こ俺様のこと何も知らねーくせに……あぁ、イライラする。
俺様は笑みを深くする。
『アンタなんなの?俺様のこと何も知らないくせにさー。それに、忍なんてただの“道具”なんだから主のために死ねるなんて本望だろ?なのにホント何?アンタ。俺様のことよく知りもしないくせにそんなこと言ってさ。恥ずかしくないの?』
『……武田の忍。猿飛佐助。君は主とは違うね。あの若子は熱いのに、君はとても冷静だ。君がいるからこそ虎若子が動ける。だから君はまだ死なない方が良いだろう。それに、そんなに生にしがみついてるような目で言われてもね』
『……うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!何なんだよ!アンタ!知ってるような口聞いてさ!俺様が?生にしがみついてる?そんなわけないだろ!!忍なんだから!』
『忍も人だ。人間誰でも死ぬのは怖いさ』
『うるさっ………』
『感情のない人間なんていないよ。一人一人に色んな感情があるからね。忍も人。だから我慢しなくていいんだよ』
『っ、別、に…俺様は』
『死にそうになったとき君は何を思った?』
『あの、時………』
あの時俺様は死ぬと思った。それで、一回諦めたけどその瞬間真田の大将や大将、忍隊、かすがの顔が脳裏に浮かんだ。それで……死にたく、ないって…。まだ、やりたいこと、やることはたくさんあった…。だから……。
『俺様は死にたく、ないっ……』
『あぁ』
『忍だけどっ、人でっ…』
『あぁ』
『大切な人もいるんだ……!』
『あぁ』
『やることもたくさんあるし!真田の大将も俺様がいなきゃダメで……だから、だから!』
『俺様っ、死にたくない“!!』
『…やっとか』
改めて、自分の本心を理解すると俺様の目から涙が溢れた。体も少し震えている。俺様は死ぬのなんて怖くないつもりだった。忍なんだから、死ぬのは当たり前。そう思っていた。なのに…いざとなったら全然ダメで…。怖くて、怖くて怖くて。たくさん人を殺したのに、自分が死ぬときは怖い。こんなのオカシイよな。分かってる…。
『忍、失格だ……!』
『………』
こんなんじゃ、ダメだ。俺様は、俺様はっ…………すると、ふと暖かいモノに身を包まれた。少し血生臭い臭いもするが甘く優しい香りもする。それは、女の腕の中だった。
『っ?、ッ!!?』
『怖かったね。お疲れ…』
『!?』
『もういいんだ。我慢しないで。ここには“忍の猿飛佐助”はいない。だから、もういい。泣きたいなら泣いて、弱音も吐いていい』
『ぅっ、う“っ…!うあぁっ…!!』
俺様は女の腕の中で泣いてしまった。
あの心地よい香りが俺様を弱くした。
そして、数時間後。
『…えっと、さっきのは見なかったことにしてください』
『あぁ』
『ありがとう!えっと……』
『?』
『いや、名前聞いてなかったから……』
『!…すまない。申し遅れたね。私は豊臣軍の武将相川桜だ』
『!豊臣!……豊臣が俺様に何の用?』
『あぁ、実は武田と同盟を組もうと向かっていたけど迷ってしまってね。そして、適当に歩いてたら君がいたのさ』
『…迷ってたって………まぁいいや。そういえば、文も届いてたし助けてくれたお礼に俺様が案内するよ』
『助かるよ。ではお願いします』
『うん!じゃ行こっか!』
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