青春プレイボール!

□04
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「はあ、結局猪狩の勝ちかあ」
「ふたりともすごかったけどね」
 帰り道、私とみずきの話題のタネは無論、猪狩くんと友沢くんのこと。当たりはよかったけれど、結果は監督がセンターフライだと判断して猪狩くんの勝利ということになった。ふたりとも、特に言葉は交わさずに練習に戻っていき、その後はギャラリーも練習へとすんなり入っていった。
「友沢が勝ってくれなきゃ、百合香の気持ちが報われないじゃない!」
「別に、恨んでるってわけじゃないから……」
 でも、友沢くん……きっと悔しかっただろうな。一度もベンチに来なかったし、顔色をうかがうことはできなかったけれど。
「何言ってるのよ! 百合香は遊ばれたのよ、猪狩に!」
「ちょっとふざけが過ぎただけだって……」
「もう、優しすぎるんだから」
「みずきは友達想いだね」
「あったりまえよ! 全く、友沢ってばあそこは一発ホームラン打つしかないでしょうが!」
 私の代わりにむくれたみずきに心の中で感謝しておく。ひょこひょこ動く彼女のくせっ毛にかわいいなあなんて完全に私は当事者の意識などない。猪狩には気をつけてね、なんて真剣な顔で言われて、笑ったら怒られたけど。でも、彼女には言っていないけれど、猪狩くんへ恨みつらみはなくとも、悲嘆は確かにあった。みずきは聞いたら、火山噴火のように怒ってくれるのだろう。その気持ちだけが私の支えだ。
 みずきに手を振って私も目の前のアパートに入ろうとした時、聞き慣れた声に辺りを見渡す。それはみずきもおなじことで、トコトコと私のもとへ戻ってきた。どこから? あっち? ふたりで指差しのみの会話。声が聞こえたかもしれない場所、公園の方を向く。空気を割くような音が聞こえた。よく聞くこの音は、素振りのものだ。顔を見合わせて、行こうと言葉にはせずに頷く。みずきと走っていくと、そこにはやっぱり声通りの顔があった。
「あれ、みずきちゃんと百合香ちゃん?」
 いち早く気づいた葉羽くんが不思議そうな顔を私たちに向ける。それに対して聞きたいのはこっちだ。部活も終わって、明日も朝練があるというのに。
「あんたたち、何してるの?」
「オイラたち、今日は部活を休んだから練習でやんす!」
「はあ? その前に試験をなんとかしなさいよ」
「はは……それもそうなんだけどさ、猪狩と友沢がやり合ってたのが教室から見えて、いてもたってもいられなくなったんだ」
「……小筆ちゃんは?」
「えっと、葉羽くんと矢部くんが、無理しないように……です」
 なんて熱い人たちなんだろう。感銘を受ける反面、うんざりもする。試験も近いし、それでいて明日も野球をする。それなのに、素振りを繰り返す。叩かれても何度でも立ち上がるぞ、それを体現して努力し続けるふたりと小筆ちゃんに拍手したいほど。それでも、オーバーワークはマネージャーとしても、友達としても見過ごせない。
「でも、もう暗いよ」
「そうよ、あんたたちは追試の方が心配だしね」
「う、返す言葉もない……」
 頑張りたいって気持ちがあるのはよくわかる。申し訳ない気持ちにはなるけど……ダメダメ。みずきがこう言っているのも、葉羽くんたちを心配しているから。私も甘いことは言ってられない。彼らを思うのなら、口を酸っぱくして言わなくては。追試まで部活に出れないのも、今無理をして怪我しちゃうのも、大会に響いてしまう。
「小筆ちゃん、どれくらい前からやってるの?」
「一時間くらい前、から……」
「……そろそろ引かないとまずいわよ」
「で、でも! 葉羽くんも矢部くんも……無理しないで練習していたら、レギュラーは絶対取れないって……」
 みずきのしらけた目に小筆ちゃんが遮るように立った。こんな小筆ちゃんは初めてだ。彼女は語気を強め、目に角を作り、みずきと私を見ている。そんな目をされたら、強く言えない、じゃないか。
「ふたりとも、頑張ってるから、止めないでくださいっ……! 本当に、これ以上は無理だって思ったら、とめる、ので……」
 小さいけれど、芯のある声。三年でもないのにそんな目を、顔をするのは驚いたけど……本当にこのままでいいのかな。
「オイラからもお願いするでやんす!」
「俺も頼むよ、みずきちゃん、百合香ちゃん!」
 小筆ちゃんだけじゃない。練習しているふたりにも言われて、みずきも私も最早口をつぐむことしかできず、顔で心配していることを伝え、その場を去った。
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