青春プレイボール!

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「あーーづーーいーーー」
「そうだね」
「百合香、全然暑そうに見えないんだけど」
「しゃべる元気もないくらい暑い」
 玄関で靴を脱ぎ、上履きに履き替える。そうです、今日は夏休み中の登校日。運も悪いことに、お天気お姉さんが全国的な猛暑日になるって言っていた。太陽さん、近すぎやしませんか。
 暑さでフラフラしているみずきと一緒に教室へ向かう。もう、制服全部脱いでしまいたい。それかプールにダイブしたい。
「おはよう、百合香ちゃん、みずきちゃん」
「おはよう、セッちゃん。なんか涼しそうな顔してるね」
「そんなことないわ、暑いわよ」
「ああもう誰よ! 登校日なんて考えたヤツは!」
「落ち着いて」
 けれど、みずきが怒るのもわかります。授業があるのなら諦めがつくけれど、今日は休み明けにある文化祭のことを決めるための登校日。教室には、人もまばら。こんな日ならすべて文化祭委員に任せちゃおうなんて魂胆の人もいるだろうな。男の子なんてふたりくらいしか来ていない。気まずそうにしていて可哀想ですね。あなたたちはなにも悪いことをしてないよ。
「お、はよう」
「チカちゃん、おはよう」
 人が少ない教室。だらけた雰囲気で、話し合いは始まった。のだけれど、私は発言したり意見を出したりするタイプではない。だれかの言ったことに対するイエスマン。そうだね。おっしゃるとおり。ごもっとも。これは私の三大用語である。
「うちのクラスはアイドルカフェに決定でーす」
 とんとん拍子で決まった。こんな話し合いだからか、主人公はどうやら我らが女の子。みんなはどうやらアイドルにノリノリみたい。
 もう一回言うね。私は発言したり、意見を出したりするタイプじゃない。だれかの言ったことに対するイエスマン。そうだね。おっしゃるとおり。ごもっとも。これは私の三大用語である。そんな、他力本願な私だからでしょうか。
「アイドルはこのメンバーに決定でーす」天罰が下ったようです。
「百合香、すごいわね! アイドルじゃん!」
「何言ってるのよみずきは満場一致のくせに蹴ったじゃない」
「いやあ、みずきちゃんがカワイイのは知ってるんだけどねえ? 練習があるからさあ。よかったわ、私の代わりが百合香で! ぴったりじゃない!」
「いや見てよ他のメンバー。高坂さんと、南さんと、園田さんだよ。すっごくモテる可愛い女の子ばっかりだよ私だけ場違いだよ!」
「ええ、百合香だってかわいいじゃん。顔もかわいい部類に入ると思うし……なによりその百合香っぽさ!」
「私っぽさってなによ……」
「でも、推薦だからさ。みんな百合香がかわいいって思ったから選ばれたのよ! たぶん!」
「たぶんってなによお……」
 納得できない。机に額をつけてどうしてこうなったのかをぐるぐる考えるけど、どうもそこまでの悪行はしていない。神様は私が嫌いなのかな。
「まあまあ、元気出して百合香ちゃん。大丈夫、あなたならできるわ。なんてったって、私が推薦した子だもの」
「あなただったのね!?」
 おしとやかに笑う悪魔にため息をつく。もう、幸せなんて逃げてしまっているだろう。救いは、同じアイドルをやる女の子たちが、すごく可愛いだけでなく、とっても性格が良い人たちだったこと。たったそれだけ。
 
 誰もいないクラスにて。顔もかわいい、スタイルもいい女の子たちが歌って踊る。そんな姿を映したスマホを四人で囲む。
「この曲はどうですか?」
「わお、セクシーだねえ! いいかんじ!」
「あ、見てみて。他にもかわいい系とかあるよ」
「わ、私はみんなにお任せします……」
 アイドルに選ばれたメンバーは、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃん、そして私。私以外のみんなはキラキラしていてかわいくて、どこか、動画の女の子たちと被る気がした。いや、でも、私は、ね。
「もう、百合香ちゃんも意見出してよー!」
「私たち、同じグループなんだもん、ねっ!」
「ことりの言うとおりです。百合香は、もう仲間じゃないですか」
「な、仲間か……へへ、海未ちゃんたちみたいな子と一緒なの、嬉しいな」
「私もだよ百合香ちゃーん!」
 飛びついてきた穂乃果ちゃんを受け止める。真ん中にあったスマホを海未ちゃんがさっと取って、最悪の事態は免れたらしい。
「百合香ちゃんばっかり! もう、穂乃果ちゃんってばーっ」
「ことりちゃんも、だーいすきだよっ!」
「穂乃果ちゃーんっ!」
 ことりちゃんのかわいい声と一緒に、海未ちゃんがため息をついた。そして、私にすみませんとひとこと。いや、眼福なので気にしないで、海未ちゃん。
「穂乃果、ことり! はやく曲を決めてしまいましょう!」
「もう、わかってるよ海未ちゃーんっ」
「ことりちゃんも、早く決めちゃお、ね」
「うん! ことりも早く百合香ちゃんと踊りたいな!」
 女の子らしさ溢れる教室で、ハイテンポな曲が流れる。三人といると、アイドルに選ばれてよかったかも、なんて考えたりしました。
 
 曲も決まって、あとはひたすら練習あるのみ。
「よーし、おっどるぞー!」
「うん! 踊ろう!」
「う、上手くできるかな……」
「大丈夫ですよ、百合香」
 歌って、踊って、笑顔の練習。穂乃果ちゃんとことりちゃんはとても踊ることが上手。海未ちゃんも恥じらう割にはかっこよく、そして可愛らしく踊っている。私も真似してみようと身体を揺らして手を広げた。
 始めてさえしまえば楽しくなるもの。それは私も例外ではありません。すぐさまその虜となったから、彼女たちに声をかけられるまで自分の世界に浸ってしまいました。
「百合香ちゃん、上手!」
「心配ありませんね」
「あ、ありがとう。踊るのって楽しいね」
「そうだよね! よし、じゃあみんなで振りの確認をしよう!」
 せーの、とかけ声をかけて笑顔で楽しそうに踊る三人と同じことを手で足で表す。口元までも真似れば、なるほど、もっともっと気持ちが弾んだ。これはセッちゃんに感謝しなくちゃ。四人の明るい空気が、授業を終えた教室ですら悲しませることはなかった。
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