青春プレイボール!

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1年生が正式に入部して、新生パワフル高校野球部となった。そんな新人さんたちの中でも、頭角を現しているのは久遠くん。あの友沢くんの後輩とあってか、実力本位らしい。
そしてもうひとり、六道聖ちゃん。女の子だけど、どんな球も捕る。そんなものすごいキャッチャー。みずき、あおいちゃんに続く女の子だし、あまり無理はしないでほしい。そんな思い入れが、他の男の子たちに比べてある。本音、なんだけど。

「東野さん」

「ごめんね、久遠くん。聖ちゃん、さっきからずっと練習してるよね。少し休んだら?」

「東野先輩、私のことは気にしなくていい」

「……そんなこといわれても」

聖ちゃんが球を受けていた久遠くんを止めさせまでしたのに、彼女はやめようとしない。頬に手を当ててため息をつく。もう、久遠くんから受ける前は別の投手と練習してたのに。まったくベンチまで休みにこない。
……あの友沢くんや猪狩くんですら、定期的には休みに来てるよ。猪狩くんはからかいに来てるのかもしれないけど。

「僕も休んだ方がいいと思うよ、六道さんは女の子なんだし」

久遠くんの言うとおりだ。帽子を取って、汗を拭う彼に心の中で拍手を送る。でも、聖ちゃんはそれを聞くと、無表情だった目を鋭くさせた。

「女子というフィルターにかけられるのはいささか不本意だな」

どうやら、彼女は女の子として扱われるのがイヤみたい。それでも、練習過剰には変わりないんだけどね。やんわりとその旨を伝えると、ぷい、とそっぽを向いてしまった。とにかく、なんとか休憩させられないかなあ。怪我されちゃダメだもんね。

「久遠くん。聖ちゃんを借りていいかな」

「もちろん、大丈夫です」

「な、先輩! 私はそんな……」

「だーめ。聖ちゃん、先輩には従いなさい」

腕を組んで、眉を寄せた。聖ちゃんの方が私よりずっと背が高いけれど、キャッチングで座り込んでいる彼女を、上から見つめる、今だけ。

「ね、聖ちゃん」

言い聞かせるようにもう一度名前を呼ぶと、彼女はようやく足を伸ばした。すぐに逆転する視線。

「……あぁ、わかった。東野先輩の言うとおりにする」

しぶしぶ、だが。安心して顔が緩んだ私を、相変わらず無表情でひと目投げる。そして、ベンチへ歩いていった。あわてて、その後をついていく。傍から見たら、私が先輩になんて見えない光景。もう、矢部くん。百合香ちゃん小さいでやんす、なんて指差さないで。女の子の中では平均的な身長なんです。……あ、矢部くんが友沢くんに怒られた。

聖ちゃんが座り込んだ隣に、私も腰掛ける。強引に連れてきてしまったけれど、嫌がられてはないみたい。よかった。

「お疲れ様。はい、これ飲んで」

「すまないな、先輩」

「何言ってるの。もとはといえば私が無理矢理ここに引っ張ってきたんだから」

それに、来たら来たでやけにしおらしいというか、控えめというか。こうしてみれば、かわいい後輩だ。
だからこそ、少し特別扱いしてみた。それは、スポーツドリンク。小筆ちゃんのマネージャーとしてのすごさに触発された私は、自分もなにかできないかと、最近凝っている料理分野を模索していた。そこで、目をつけたのがこれ。粉末の量を半分にし、別の材料を加えることで、水分や塩分のみに偏るのではなく、栄養素まで取り込める。美味しさの素となる粉末を減らすわけだから、その味を整えるのに苦労したけれど、自信作。ひっそりと水筒に入れてきたというわけです。
ひとくち、ふたくち飲んだ聖ちゃんが、じっとドリンクを見つめる。気づいたかな。


「……先輩、このドリンク、いつもと味が違うぞ」

「ふふ、それはね、私の特製ドリンクなの」

「先輩、特製の……?」

私とコップの間で目をぱちくりさせる聖ちゃん。驚いてる驚いてる。サプライズが成功した気分になって、口角が上がった。

「聖ちゃんが、初めて飲んだのよ。お味はどうですか?」

「いつものより……あまくて美味しい」

は、わ、笑ってくれた。聖ちゃんからのカウンターを受けた私は、きゅん、と母性のような何かをくすぐられた……かも。普段、あまり表情を変えない人が、いきなりそんな顔をするって、なんだか、ずるい。
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