青春プレイボール!
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「友沢さん、試合が終わったら僕の球を見てください!」
「まったく、俺はもうショートなんだぞ。猪狩さんとかに見てもらった方がいいだろう」
「いえ、僕は友沢さんに見てもらいたいんです!」
「はは、そう言われちゃ断れないな」
あのあと、友沢くんと久遠くんの関係はとっても良さそうで。球場までのバスの中、みずきのとなりに座る私は、顔を綻ばせずにはいられなかった。
「百合香、嬉しそうね。あっ、私がスタメン起用だからでしょ!」
「ふふ、そうそう」
そして、みずきが先発。もともと中学ではエース級だった人たちが集まるパワフル高校では、リリーフ扱いになる選手が多いのに、ずいぶんと名誉なこと。そのことも、私を喜ばせるのには充分で。
しかし、今日の相手はSG高校。準決勝だからか、なかなかの強豪校と当たっている。パワフル高校も負けてないけどね。
球場につくと、すでに相手は到着していて。わあ、体の大きい人たちがたくさんいる。みずきは、こんな重圧で投げるんだよね、がんばれ。ベンチに向かうみずきと、スタンドに向かう私。
ファイト。がんばるから。
短く交わして、すれちがう。数歩進んで、後ろを振り返ると、水色の髪が少し遠くて。つい、時間を忘れて見ていた。気づいたのは、友沢くんが私の名前を呼んだから。
「友沢くん、久遠くん」
「橘か?」
「うん、友沢くんもがんばってね。久遠くんは、私と一緒に応援だよ」
「はい! 友沢さんをしっかり応援しますから!」
「こら、他の選手も応援するんだぞ」
「わかってます!」
うんうん。仲直りできたんだね。よかった、よかった。ひとり、へらりとだらしなく顔を緩める。
そんな時でした。子どもがスタンドに向かって走っていて、勢いよく友沢くんにぶつかったのは。日々の練習で鍛えているものの、突然のことだったからか、大きな体が揺れた。壁際にいた私を巻き込んで。
きづいたら、壁に押しつけられていた。私の手首は、両方とも彼の手に覆われている。友沢くん、彼を呼ぼうとして前を向いた顔が固まった。いえ、それは相手も同じ。
近い、いやでも頬が赤くなってしまう。目をぎゅっと閉じようとした、瞬間。急に険しくなった彼の目が右に動いた。と思ったら、私の左腕が軽くなって。友沢くんが右手で、飛んできたこぶしを防いだ。
何が起こってるの。混乱しながらもその持ち主を見ると、青くてするどい目の女の子。友沢くんはさっと私から離れて、彼女に構えをとる。それは、彼女も同じ。女の子は、明らかに友沢くんを撃とうとしたのだから。
「誰だ」
「婦女暴行現行犯のわりに、やるわね」
まゆを寄せた彼女。汚らわしいようなものを見る目。一方、友沢くんは目を見開いていた。それを見てか、女の子がもう一度腕を振るう。なんとか、友沢くんはそれを叩き落とした。……この人、私が友沢くんに何かされそうになったって思ってるみたい。
「婦女、暴行……?」
「ええ、そこの女の子を襲おうとした」
やっぱり。あわててふたりの間に入りこむ。私がそんな行動をとったからか、彼女は半身を閉じた。
「あの、助けてくれてありがとう。でも、この人、へんな人じゃないから……誤解させてごめんなさい」
「……そう言うように強制されてるわけじゃないのね」
こくりと首を縦に振って肯定すると、彼女の緩められた目。それがなんだかかっこよくて、ステキで。ぽーっと見惚れてしまう。
「そう。なにもなくて、よかった」
やさしく、ふんわりと微笑んだ彼女。きゅん。い、イケない恋に落ちてしまいそうになって、全力で律した。……そういえば、この人の名前を知らないな。き、聞きたい。つい、彼女の手を取ってしまった。後ろにいる友沢くんと久遠くんが、息を呑む。
「東野……?」
「わ、私、パワフル高校マネージャーの東野百合香っていうの! 助けてくれて、本当にありがとう」
「氷上聡里。SG高校のマネージャーよ」
「あ、の、お友だちから、お願いしますっ!」
「東野さん!? 何言ってるんですか!」
「……? 私でよければ」
す、すてき。聡里ちゃん、聡里ちゃんかあ……。赤紫色の髪が流れた。首をかしげた姿も、なんかこう、麗しさを感じる。
「よ、よろしく、聡里ちゃん!」
「よろしく、百合香」
いきなり百合香って呼ばれるなんて。顔を手で覆った。
「友沢さん、これ……まずくないですか」
「……東野を奪われる危機なら、やむを得ない」
「お、おちついてください、東野さんは友沢さんの彼女ですから! 友沢さんのものですから! 構えないでくださーい!」