青春プレイボール!

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「えっ、百合香、彼氏がいるの!?」

「う、うん」

「レギュラー?」

「……4番の人」

「えー! ショートの友沢くんか、聞いたことあるよ!」

「やっぱりすごいんだね……」

雅に友沢くんのことを話してみれば、知ってる知ってる。うそでしょ、私の地元のひとだよ、このひと。友沢くんって、ほんとに、ホントにすごい人だなぁ。
そして、電話でのことを話すと、「僕のことなんて気にしないで行ってきなよ! でも、夜、帰って、来ない……の?」なんて、涙をためて上目がち。ひっ、かわいいっ。我が幼なじみながら、恐ろしい。

「か、帰ってくるから泣かないで!」

「ぐすっ、ホント……?」

「ほんと、ほんと! 嘘じゃないから!」

「えへへ、よかったぁ……」

頬に手を当てて、ふんわりと笑う雅。全国の男の子のみなさん、この笑顔をひとり占めしてごめんなさい。ふくろだたきにされても文句は言えません。
って、だめだめ、流されちゃ。自分のほっぺたをぐに、とつまんで気合を入れた。

「そ、それでね、友沢くんに男装とはいえ、男の子を泊めているって知られたらあまりよくないんだけど……どうしよう」

「なら、絶対に友沢くんの前で百合香の家の宿泊をほのめかすようなことは話さないよ」

「……念には念を入れて、パワフル高校の生徒の前で話さないでほしいの、いい?」

「うん、わかった。百合香のためなら、絶対に言わないよ!」

雅は私の手をとって、きりっと眉を整えた。その顔は、美しい男の子に見えなくもなくて、ほんのちょっぴりかっこいいな、なんて思ってしまう。

神から二物を与えられた雅から離れるように、携帯を握った。わぁ、さっきあんな切り方をしたから、友沢くんに、あと、この知らない番号……おそらく久遠くんから何件か着信がきている。口元に人差し指をあてて、彼女を見る。静かにしててのポーズ。手で口を覆った雅は、その仕草までかわいい。
携帯の画面に指を滑らせて耳に当てると、何度かのコール音の後に低く優しい声が聞こえた。

「……東野か?」

「うん。あの、ごめんね……携帯の電池切れちゃって」

久遠くんと練習していたからか、友沢くん、息が切れてる。今日は試合があったのに。ふたりとも、本当に努力家。

「そうだったのか……。久遠が心配していたぞ」

「そっか、心配させちゃったね……」

「だが、東野に何もなくてよかったよ」

本当に長男気質だな、友沢くんは。謝りすぎちゃ、かえって機嫌を損ねちゃうかも。素直にありがとうと返して、話を戻した。
明日、一緒に出かけるんだ。今から楽しみになっちゃうな。どこに行こうか、何をしようか。話しているうちに、久遠くんから言われたことを思い出した。友沢さんに、ごほうびをあげてください。真剣な顔だったっけ。その時に、お弁当を作ろうかなって考えたんだよね。

「ねえ、友沢くん。よければ明日、お弁当作っても、いいかな……」

こっそり囁くと、彼は少しの間の後にいいのか、と確認してきて。喜ばれてるみたい。まかせて、がんばって作るから。

「東野の料理は美味いしな」

「へへ、ありがとう。幸せそうに食べてくれる人がいるからだよ」

「……そうだな。みんな、お前の作るものが好きだからだろう」

だったら、いいな。でもね、本当は友沢くん、あなたにそう思われていたいのです。いちばんに。そんな気持ちは電話越しじゃ届かないから、明日のお弁当に込めよう。
待ち合わせ場所や時間を決めて、電話を切る。ようやく雅の方を見れば、口に当てられた手は、ほっぺに移動していた。

「み、雅……?」

「……うぅ、百合香、僕ドキドキしちゃった」

「えっ、なんで?」

「百合香が、恋する女の子の顔をしてたから……。友沢くんが大好きなんだね!」

色っぽく眉を落としたと思えば、にっこりと私にバクダンを投げかけた彼女。大好きって。一気にそのドキドキとやらが襲いかかってきた。

「も、もうひとり電話する人がいるから、静かにしててね!」

あわてて携帯に戻ると、はーいなんて気の抜けた声。ほてりを忘れようと、心配をかけた後輩のものだと思われる電話番号に発信。
友沢くんよりはやめに出た久遠くんが心配そうに私の名前を呼ぶものだから、謝ってからなにごともないことを教えると、彼からもバクダンが落とされた。

「東野さんがなにかの事件に巻き込まれたりしているんじゃないかって、友沢さん、ものすごく必死に探してましたよ! なにもなくてよかったぁ」

「……え、心配してくれたのは久遠くんじゃないの?」

「何言ってるんですか。僕も心配しましたけど、友沢さんなんて、今から東野さんの家に行くって言い出したんですよ」

「そ、そうなんだ……」

「はい。さすがにそれはいきなりすぎるので、僕が止めましたけど。あんな焦った友沢さん、初めて見ました」

笑いながら「友沢さんは、東野さんが本当に大切なんですね」なんて言われてしまえば、雅に言われた時よりずっと熱を持ってしまった。
けれど、それと一緒に友沢くんの息が切れていた理由がわかって、嬉しくなった。……ありがとうって、明日言おうか。
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