青春プレイボール!

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……波乱の予感です。

「百合香ちゃん、このかっこいい人は!?」

「あれ、東野さんって友沢くんと付き合ってるんだよね……?」

「お、幼なじみだよ! 幼なじみ!」

本日は晴天なり。文化祭日和です。けれど、ここ2年1組は演劇という出し物を前に、がやがやと事件が起こっていた。発端は教室に入ってきて、私を呼んだボーイッシュファッションのおんなの……いえ、男の子。さっきから同じ質問を受けて、同じ答えを渡すくりかえし。もう、自覚のないキレイな顔はたまったもんじゃない。

「百合香ちゃんの幼なじみさん、なんだか、眩しいです……」

「素敵な人ですね、百合香さんの幼なじみは」

「くっ、カッコ可愛いでやんす、男の子なのに……!」

矢部くんなんて、すでに道を踏み外しそう。でも安心してね、本当は女の子だから。……それが言えたら、どれだけ楽か。なおもキラキラスマイルをクラスメイトに送り続ける彼、雅を睨みつけた。

「……百合香、どうしたの?」

私の目に気づいたとたん、しゅんとするのだから、さらに悪質。ため息をつく。とりあえず、今日一日が平穏に終わることを祈っておこう。

「なんでもないよ。それで、一緒に回ろうって?」

「うん、よかったら僕にパワフル高校のことを紹介してよ」

「わかった、私の役目が終わったらね」

かわいい幼なじみは罪だ。へへ、と嬉しそうに笑う姿にクラスの男の子が息をのみ、その後で思いっきり首を振っていた。とにかく、ここにいてはよろしくないだろう。あとは携帯で連絡するから、と雅を教室から追い出して、劇の準備にとりかかった。


衣装係だった私、本番中は照明係である小筆ちゃんのお手伝いで真正面から劇を見ることは叶わなかった。けれど、サッカー部のみなさんの迫真の演技と、持ち前のギャグセンスで時々笑いや拍手が起こっていて、どうやらうまいこといっているらしい。……あ、矢部くんの石役はしっかり見届けたからね。よくがんばりました。おつかれさまです。
無事、終幕。今日はこれだけで、あとは文化祭を見て回れるのだから、去年とは大違いだ。まあ、どうして私が選ばれたのかわからないけど、1年の時は大役を任されちゃったんだもんねぇ。そういえば、友沢くん、アイドルが好きだから……当時、ドキドキしてくれたりしたのかな。

「百合香さん、お疲れさま。照明を手伝うなんてさすがですね」

「……す、進くん!」

「ん、どうかした?」

「い、いえ……」

ぽやーっとした頭が瞬時に現実へ。進くん、引き戻してくれてありがとう。頬に手を当てたら、やだ、熱い。見てみぬふりしてくれているのか「幼なじみくんはいいの?」とまたまた助けてくれる。そうでした、行ってきます。進くんにお礼を言いつつ、制服を翻した。

携帯から雅の名前を取り出して耳に当てると、思いの外はやく出て。もしもし、と少しと大きめな声。

「劇、終わったの?」

「うん、今から雅のところに向かおうと思ってるんだけど……」

「なんか女の子に勧誘されて……今、2年3組の喫茶店にいるんだ」

なるほど、キャッチされたのね。ガードの緩いあの子のことだ、顔と言い、断れなさがにじみ出てしまったのだろう。そこに行くから待ってて、と手元の機械に声をかけるとやわらかい返事。こんなので、周りはわからないものなのかな、女の子だって。彼女を耳から引きはがす。さて、雅を迎えに行かなきゃ。目指すは2年3組。

狭い廊下をごった返す人の波。流されたり、逆らったりしながら、ようやくたどり着いた。去年はいろいろあったから気づかなかったけど、ここの文化祭って人気あるんだなあ。それに、野球部も一役かっていると思いたい。
教室のドアをくぐると、見たことのある人が見たことのない姿をしている。そこで、思い出した。ずーっと、忘れていたこと。

「い、猪狩くん……こんにちは」

「……見るな!」

ピンク色が基調のフリル付きメイド服を着て……いや、着せられている猪狩くん。夏休みの登校日、3組の女の子たちがあれよあれよと決めてしまったんだっけ。人気がありすぎるのも困りものだね。けれど、皮肉なのか、なんなのか。私から目を背ける彼は、顔のせいか違和感がない。きっと、私より似合っている。
力のない眉であいまいな笑みを作っていると、横から私の名前が投げつけられた。

「百合香!」

うん? なんか、ソプラノとアルトのように重なっていたような。その先に顔を差し出すと、よく知るふたり、みずきと雅。なんと、彼女たちは同じテーブルに座っている。しかもみずきは、猪狩くんとは違う服だけど、ウエイトレスさんモード。ふたりともかわいらしいから、絵になるなあ。他人事のようにそんなことを考えていた私は、本当に、のうてんきだったと思います。
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