青春プレイボール!

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 夏休みが終わって、秋を迎えて。そして、秋の高校野球大会を迎えました。今日は予選の初戦。夏のリベンジのためにも負けられない。勝ち抜いていけば覇堂高校と当たるはずなのだから。
「よーし、やるわよー! バシバシ三振の山築くからね!」
「がんばってー!」
 そして今日はあのみずきが先発に選ばれたのです。もちろん、名目としてはエースである猪狩くんを温存させるため。いつものみずきであれば、なんで私がアイツなんかのために! とかああだこうだぶつくさ言いそうだけれど、選ばれたことが嬉しかったのか上機嫌みたい。それと、もうひとつ。
「ここから僕を見れるなんて、キミは幸せだな」
「そうだね、感謝しなきゃ」
 なんとこの東野百合香、スコアラーに任命されました。そのため、私もレギュラーの方たちと一緒にベンチ入りというわけです。小筆ちゃん、葉羽くん、矢部くんと一緒に見れないのは寂しいけれど、自分の仕事に集中しなければ。
 近くに腰かける猪狩くんは、今日の登板はないというのに、ベンチから見る彼の姿をクールに語っている。ああ、彼女じゃなくて、彼のことです。猪狩くんがマウンドに上がる時にはしっかりと見ていよう。
「進くん、防具つけるの手伝うよ」
「ありがとう、百合香さん」
「いえいえ。今日もキャッチャー、頑張ってね」
「ええ、頑張ります」
 ベンチを立って進くんの傍に駆け寄る。こちら側のマネージャーにはこちらなりにやることもたくさんあるみたいだ。進くんを見習って私も気合を入れないと。
 早く投げたいと怒号を飛ばすみずきに嫌な顔ひとつせずブルペンへ走っていく進くんを見送ると、思いがけずため息が漏れる。どうやら、彼には後で謝っておく必要があるようだ。
「今日からスコアラーか」
 かけられた声に振り返ると、バットを肩に乗せた友沢くんが相も変わらず無表情に限りなく近い顔をしていた。素振りの最中でしょうか。
「うん、スコアつけるのってまだ手際よくできないから、頑張らないと」
「こっちが攻撃の時は助けてやる」
 顔に見合わず優しい友沢くんの言葉に、ゲンキンながらやる気が沸いてくる。そして嬉しくなる。きっと、特別なこの人だから。
「ありがとう。今日も頑張ってね」
「ああ、任せろ」
 ようやく微笑んだ友沢くんに会えば、なんだか空でも飛べそうなくらいにフワフワと身体が軽い。好きな人がいるとはこういうことね。
 夏のリベンジを誓った誇り同士がぶつかる聖戦に、生温い気持ちでいたからか天罰でしょうか。聞いたことのある怒鳴りも同然の元気な私の名前がフェンスから飛んできて頭に直撃した。 見れば、木場くんがパワフル高校側スタンドのすぐ横からこちらを見ている。
「き、木場くん!」
 また何か言われるのではないでしょうか。失礼ながら、頭より経験が私を突き動かした。事件の前に友沢くんの背中に隠れよ、と。
「東野!?」
「何隠れてんだよ!」
「こ、怖いんだもん!」
「なんだとオラァ!」
 木場くんがフェンスに掴みかかった音がガシャリと響く。それすら、恐怖でしかなかった私は友沢くんの広い背を盾に小さくなる。しかし、願いは誰かが聞いているらしい。ライオンのような彼の後から救世主のお出まし。星井くんだ。どうやら木場くんを探していたらしく、これまた失礼ながら、安心した私は友沢くんの背中から離れて星井くんに駆け寄った。
「星井くん、夏ぶりだね」
「そうだね、木場が怖がらせてごめんよ」
「俺は別に怖がらせてねえ!」
「それは木場じゃなくて、東野さんが決めることだろ」
「チッ、テメェはビビりなんだよ!」
「そ、そんなことない……と思うけど」
「フフ、東野さん、それに友沢くん。パワフル高校のことを応援しているよ。また僕たちと夏の再戦をしよう」
「望むところだ」
 それじゃあねと木場くんの首根っこをつかんでフェンスから離れていく星井くんと、姿が見えなくなるまで、負けんじゃねえぞテメェら! 俺たちがテメェらを決勝でブッ潰してやるからな! と騒いでる木場くん。応援しに来たのやら、威嚇しに来たのやら。
「覇堂のふたり、変わってないね」
 友沢くんを見れば、彼は食入るように私を見ていた。おかげで微々たる狂いもなく彼と瞳で交わる。
「ベンチに戻るぞ」
 しかし、彼は私の返事を待たずして踵を返したものだから、乙女になる猶予もなく彼を追いかけた。
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