青春プレイボール!

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「な、な、なんで……!」

「みずき、おちついて」

「なんで!」

「おちついてって」

「ど、どうして百合香はそんな平然としてられるのよ!」

「いや、これでも十分驚いてるよ」

「全然そう見えないんだけど!?」

「みずきの反応見てたら……うん」

「さてはポーカーフェイス持ちね!?」

「私、ピッチャーじゃないから」

こんな漫才じみた会話を繰り広げるのにも理由があって。私たちが意気揚々と入っていったアパレルショップに、チームメイトの友沢亮くんがいたからです。いらっしゃいませ、という言葉つきで。
友沢くんのお母さんに会ったことで家庭事情がわかった私は、コンビニ以外でもバイトしてるんだ、えらいなぁ、泣かせるなぁ、なんておばあちゃん心で見ていたけれど、みずきからしてみれば、彼がここにいることは、天地仰天レベルの驚きらしい。ほら、あれ、なんだっけ。昔流行った、あれ。あ、そうそう。シェー。シェーみたいなポーズしてるもん、みずき。

「東野、部活の後は子守か……大変だな」

「子守ってなによ!」

「私より大きい子どもだから、手懐けるのが難しくて……」

「百合香まで!?」

いや、つい。振られたものだから。ごめんごめん、と頭をなでれば、許された。この子、ここに来る前も思ったけど、ガード緩すぎないかな。変な人について行っちゃいそうで、心配。

「で、なにをお求めですか?」

にこりと、部活では絶対に見せないような満面の笑みを浮かべる友沢くん。それを見た私たちの差は激しい。想いをよせるひとのそんな笑顔に、頬がそまる。こんな店員さんがいたら、ここも繁盛しているんだろうな。みずきは私から身体を離して、彼を白い目で見ていた。

「え、と……」

「百合香! こんな胡散臭いカオに引っかかっちゃダメよ!」

「へ、あ、うんっ」

「もう、百合香が心配……!」

あれ、気づけば心配されてる側にいる。おかしいな。そうこうしているうちに、友沢くんはごそごそと店内のハンガーたちを漁り、ひとつを取り出す。そして、再びあの笑顔を見せた。

「お客様、こちらなんていかがでしょう」

「誰よあんた」

「まあまあ」

不機嫌度マックスなみずきを、まずはなだめなきゃ。うーん、なんて言ったらいいかな。

「友沢くん、私服もすごくかっこよかったし、センスあるから、きっとステキな服を見せてくれるよ」

「は!? 百合香、友沢の私服見たの!?」

「あ、やば」

「私服で友沢とあったの!? デート!? あんた、百合香をたぶらかすんじゃないわよ!」

「ち、違うって! たまたま私服で歩いてたら会っただけ!」

「その後に、このモールに来たんだったな」

「こ、こ、に、き、た……?」

「友沢くん黙って」

キッと彼を睨みつける。それに友沢くんはビクリと肩を震わせたが、今はそんなことを気にしてられない。まさかの墓穴を掘ることになろうとは。ただでさえ沸点の低いみずきが、憤りで爆発しそう。とにかくなだめるために、よしよし。これで少しは落ち着くかな。うん。

そう思ったのに。

「百合香、これかわいくない?」

「いや、東野ならこっちだな」

「あのー……」

「あ、これ! 絶対百合香に合うよ!」

「こっちの方が東野の良さが際立つ」

「えっと……」

「友沢! 百合香の服は私が選ぶって言ってるでしょうが!」

店員さんの友沢くんは、さっきから私の周りをうろうろうろ。もちろんそれを黙って見ているみずきではなく、口喧嘩が始まる。いつものことだけど、なんだか私が置いてけぼり。別のところでみずきの服、探してこようかな。ふたりの目を盗む……こともなく、堂々とお店を出ていった。

「あんたねえ、しつこいのよ!」

「いや、橘よりは俺の方が東野のセンスに近いかと思うぞ」

「はぁ? なにそれ、そんなワケないじゃない。だって、私は百合香とあんたよりずっと一緒にいるんだから!」

「だからと言って、センスが合うとは限らない。現に、東野は俺の私服をすごくかっこいいと言っていたじゃないか。それは、俺と服の好みが似ているということだろう」

「すごく、のところ強調して言うんじゃないわよ!そんなこと言うなら百合香に決めてもらいましょ」

「そうだな、それが一番手っ取り早い。……ん?」

「どうしたのよ……あれ、百合香はどこ?」

「……いない、な」

「えー!? うそ、友沢なんかに関わってなきゃよかった! どどど、どうしよう、百合香、どこなのー!」

「落ち着け橘、こ、こういう時はまず救急車……」

「あんたがおちつきなさいよ! こんな時はやっぱり……」
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