青春プレイボール!

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後日、私にしては珍しく、寝坊してしまい、ひとりで登校。ダッシュでなんとか間に合ったわけだ。よかった。下駄箱に来たら、遅刻常習犯のハッチに会って、おはようと声をかける。
ここで、私はハッチからも元気なおはよ!が返ってきて終わるものかと思っていた。しかし、彼女はおはよ!の後に、そういえば、と私を見た。

「アタシ、勘違いしてたぜ。百合香は友沢と付き合ってるのかと思ってたけど、みずきと付き合ってたんだな!」

「……はい?」

な、な、な、何言ってるんですかこの子ぉぉぉ! 突然のことに、手に持っていたローファーが地面に落ちた。それだけじゃない。私は、頭に巨大な岩石が落ちたかのような衝撃を受ける。

「両方とも違うよ!?」

「えっ、そうなのか? 1組のやつが教えてくれたんだけどな。ああ、あと3組のやつと2年の先輩も言ってたぜ!」

「へ……」

な、なぜ!女の子同士でそんな噂がたつの!こわっ!しかも結構広まってる!こわっ!それより、まずくないですか。まずいよね。きっと、学校では、うわー、東野さん引くわー。女の子同士とかないわー。気持ち悪いわー。とか言われてるんだろうな。みずきは人望も人気もあるけど、私はないし……。
ハッ、というか、橘さんまじかわいそー。東野さんに言い寄られてるんだってー。とか言われてるんじゃ……。都会はそういうの陰険って聞くし……ああもう実家に帰りたい。今すぐに。

「……百合香、教室行かねえのか?」

固まった私の代わりにローファーを拾ってくれたハッチ。可愛らしくふしぎそうな顔をする彼女に、ガチガチな笑みを返す。絶対に今、笑えてない。ていうか、教室行けないよ、行きたくないよこわいよおぉ!

「……東野は、き、気分不良で保健室に行ってますって先生に伝えといてくれる……?」

「体調悪いのか!?」

「あは、だ、大丈夫、ちょっとだけ、ちょぉっとだけ……あはは……」

安静にしろよ、とみずきをつけ狙うらしい私なんかに声をかけてくれるハッチ。彼女、本当に天使だと思います。はい。そんな天使さんを見送ってから、私は保健室へダッシュ。本日二本目。

「理香せんせぇ〜!」

今日も綺麗でセクシーな理香先生に泣きつく。京子先生もいいけど、どちらかといえば理香先生の方がアネゴ肌で、今の私には相性がいい。

「あら、東野さん。珍しいわね? どうしたの?」

「私もう今日から学校行けませんよ!」

「はいはい、今日も出席、元気そうね」

「違うんです! みずきと付き合ってるとかいうワケわからない噂が流れてて……!」

半分べそかきで、理香先生を見上げると、真っ赤なグロスが塗られたてかてかの唇が、綺麗な弧を描いた。

「……ふぅん、じゃあ本当に付き合ってるコ、呼んじゃおっかな」

理香先生は、女性らしい誘惑げな笑みを見せて、ネイルで飾られた爪をスマホに滑らせた。なにするつもりですか。

「あ、もしもし、先生? そうそう、東野さん預かってるんだけど、友沢くん寄越してくれないかしら。ほんと? うふふ、今度お礼はしっかりするわ。じゃあね〜」

「と、友沢くん!?」

「はい、じゃあ東野さんはベッドで寝てなさい。私、これから用事あって空けるから、んふふ、事後処理はしっかりお願いね」

「……はい?」

混乱してる私をベッドまで連れて行ってから、にやりとこっちを見た先生。男の子なら悩殺されてしまいそうな表情にぽ、と頬が染まった。なんだか、見てるこっちが恥ずかしくなるほど、その、性的な魅力に溢れたひとだ。
先生は長い髪を靡かせて、私に背を向ける。
ベッドから離れると、しばらく棚をごそごそと漁り、テーブルになにかの箱を置いた。ここからじゃよく見えないな。
さらに、先生はそのテーブルの上で胸からペンを取り出して何かを書き出す。ここからだと、少し前かがみになって書きものをする先生の胸が、強調されていることに気づいて、すぐに目を逸らした。
そんな私を知る由もない先生は、じゃ、と私を一度見てから、ヒールを鳴らして保健室を出ていく。それを見送ると、ごそごそと上履きをソックスから離してベッドに仰向けになる。
寝坊した私からしたら、その感覚は魅惑的なもので。気づけば夢の世界に旅立っていました。
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