青春プレイボール!
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「本当にいいんですか!?」
「うん、どうぞ。付き合ってくれたお礼です」
「ありがとう! どれにしようかな……」
あの後、私の話に付き合ってくれた進くんを連れて、ケーキショップのお店に来た。彼は甘党らしく、さっきから目を輝かせてショーケースを覗いている。一方、私はとてもケーキを食べに来たとは言い難い表情をしていた。
「……百合香さん、食べないの?」
「え、ああ、食べる食べる。ケーキ、美味しいもんね。進くんは何にしたの?」
「ショートケーキだよ」
「へえ、私は……どれにしようかなあ。レアチーズケーキにしようかな」
あわててショーケースの中に座っているケーキの名前を呼べば、少しはその重みが紛れた。甘いものは、やっぱり偉大だ。
店員さんから受け取ったケーキをテーブルに置く。お皿も綺麗なものだからか、一層ケーキは輝きを放っている。そこに、フォークを差し込む進くん。その上の控えめなスポンジは、彼の頬を緩ませるには十分なものだったらしい。ひとたびフォークを咥えると、はあ、としあわせそうに息を吐いた。
「美味しい……」
「ふふ、進くんのそんな顔、初めて見たよ」
「僕、ケーキが好きだって言うと、周りから意外って言われるんだよね。……隠してるつもりはないんだけどなあ」
「意外は意外だけど、いい意味で、だよ」
私も、白い表面にフォークを差し込み、掬い上げる。ぱくり、口の中に広がるのは、甘くて深い、チーズの風味。それだけで、私も彼と同じように破顔する。
「百合香さんも、甘いものが好きなんだね」
「うん!」
「今度は、兄さんも混ぜて行きたいな」
「…………」
「どうかした?」
「い、いえ。猪狩くん、甘いもの、平気なの?」
「ああ見えて、ロールケーキが好きなんですよ」
「へえ、意外かも。あ、いい意味で、ね」
「ふふ、気にしなくていいのに」
進くんがまた一口、生クリームがたっぷりついたスポンジを頬張る。……イチゴは最後まで残しておく人らしい。私も、もう一口。ケーキに手をつけようとした。
彼に、次は猪狩くんもと言われた時、自然にいつかみずきと行きたいな、なんて考えていた。……そんなこと、考える資格、ある?
「進くん」
「はい?」
「……お腹いっぱいになっちゃった。チーズケーキ、食べる?」
「でも、まだ一口しか食べてないよね?」
「うーん、なんだか今日はチーズケーキって気分じゃなかったかな。あはは、失敗しちゃった」
箸、というのは語弊があるかな。フォークが、進まない。理由はわかりきっているわけだけど。こんな、甘いものを食べている時くらい、忘れたかった。これは本音。でも、それすら許されない、そんな気がする。
だって、それくらいのこと、してるんだもんね。
「それならいただきます。ありがとうございます!」
「いいって。こちらこそ、今日は本当にありがとうね」
彼は、私の代わりに満面の笑みを見せてくれて。きっと、上手に笑えていない私は、ケーキショップでは浮いて見えるんだろうな。