青春プレイボール!

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「…待ってて、今あったかいもの出すから」

家に帰って、みずきと椅子に座る。私はずっとうつむいたままで、私の家でほぼ同居している彼女が、難なくお湯を沸かして紅茶を差し出す。それを飲むと、紅茶の味に混ざって、彼女のやさしさも感じられて、冷えた身体がじんわりととかれていく。しかし、そんな心地よいものと反作用のように湧いたのは、罪悪感。矛盾したふたつの感情が交差して、喉までこみ上げた。

「ありがとう……」

「いいから。百合香は気にしないの」

「…………」

私の前で、同じく紅茶を飲む彼女。カップを口から離し、ソーサーに置く。こちらを向いたカップの取手。それがまるで、私に何があったか教えて、と話しかけてくるよう。みずきは、冷蔵庫からプリンを2つ取り出す。朝、家を出る前は、入ってなかったもの。私の前にひとつ置くと、何も気にしてなさそうにもうひとつのフタを開けた。

何も聞いてこない姿、表情には、見覚えがある。みずきは、私が話すのを待ってる。こんなところで、友達より自分を守ろうとする、ずるい私を。……全部、話そう。さらけ出してしまおう。それが、ずるい私にできる、親友への態度だと思った。

「みずき」

両手でカップを持っていたせいか、取手がみずきの方を向く。みずきは、いつもの間延びした声で、返事をした。

「聞いて、くれる……?」

「当たり前、でしょ」

さっきよりも晴れやかな、みずきの笑顔。それを見ておちつく。すう、と息を吸って、はあ、と吐く。

「……友沢くんに、25日、誘われたの」

「……うん」

「それで、ね……みずきのこと、考えちゃって……」

「百合香……」

ちらりとみずきを見れば、眉を下げていて。そんな顔をさせているのは、私。ギュッと目を瞑ってしまう、弱い私。ダメよ、向き合わなきゃ。こころもとない力で、なんとか瞼を上げる。みずきは逸らすことなく、こちらを見ていた。

「ふたりのこと、邪魔しちゃいけないってわかってる、けど……わ、私も、友沢くんのこと……好き、だから……い、行きたいの!」

手に力が入った。下を向きがちになってしまったけれど、上目遣いに彼女をしっかりと見たつもりだ。
みずきの体がピタリと止まる。

「……え? 邪魔しちゃいけない?」

「う、うん……」

「……なんで?」

「え、そりゃあ、みずきと友沢くんがお似合いだから……」

みずきは、再びカップを手にとって口に含む。ただ、目だけはこっちを見ていた。……ぐっと細めて。やっぱり、怒ってる。わかっていたことだけど、背筋がぴんと伸びた。でも、どんなことを言われても、悪いのは私。だから、耐えなきゃ。下を向くな、目を逸らすな。

「はあ……。結論から言えば、百合香、全部誤解してるよ」

しかし、その顔のまま、彼女の口から発せられたことは、想定の範囲外、大暴投もいいところで。必死に絞り出した声は、ひとつの音しか出せなくて、それを聞いたみずきが、もうひとつため息をつく。

「まず、私と友沢の間は何もないわよ。チームメイトとしては、そこそこ信頼しているけど」

「…………」

「それに、私、友沢のこと、そういう目で見たことないし」

「…………」

ピタリと固まるのは、私の番だった。もし、みずきの言ってることが本当ならば、私はとんでもない勘違いをしていたってことになる。しかし、進くんと話した時も、ぐるぐると考えたことがまだあって。震える口を小さく開いた。

「でも、きっと、友沢くんは……みずきのこと、好き、だよ……?」

口だけじゃない。震える手で私もカップを取る。今の彼女は読めない。だからこそ、どう来るか怖くて、別のところに意識を逸らしたかった。

「それは100%ないわ!」

だん!とテーブルを叩いたみずき。かちゃりとソーサーたちが騒いだ。わ、割れちゃうよ。テーブルの上の心配をしながら、落としそうになったカップを慌てて持ち直す。しかし、彼女はすぐに不機嫌そうな顔へと切り替わった。

「……百合香、友沢に誘われたときに私のことを気にしたって、そういうことだったのね。てっきり、百合香は私と過ごすつもりだったから、気にしてくれたのかと思ったのに……」

「あ、えっと、ごめんなさい……」

なんで謝ってるんだろう、わたし。

「それに、友沢のことが好きって言ってたし」

はっ、そうだ。あらためて気づいてしまった。自分の気持ちを、勢い余って言っちゃったんだ。自覚し始めたとたん、いやでも赤くなる。カップを置いて、手を顔に覆った。

「そ、それは! あの、違うの……っ」

「百合香!」

「は、はいっ!」

なんとか弁解しようと、おろおろ宙を彷徨った腕は大人しく膝に戻ってくる。

「約束してほしいことがあるの」

急に、真剣な表情になる彼女。それに同調するかのように、息を呑んだ。みずきは、私を見たあと、いつものニヤリとした笑みを深める。

「ひとーつ!」

ひとつ?話は、複数あるのかな。

「なにがあっても、私と親友でいること! ふたーつ! 定期的にふたりで遊びに行くこと!大人になっても! みーっつ! 百合香の一番好きな野球選手は私! いいわね!」

にっと笑ったみずき、そんな彼女の顔を見て、今度は私が言う番だった。

「……当たり前、でしょ」
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