青春プレイボール!
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「ちっ、友沢のくせに」
「あはは……」
「もーう! 私も百合香とクリスマスしたいー!」
「じゃあ、日にちは違うけど、近々クリスマスパーティーしよっか」
「ほんとー!? いぇーい!」
12月25日、午後5時30分。みずきに行ってくるねと声をかけると、この様子。ご飯は作っておいたし、プリンも冷蔵庫に入っている。
ああ、そうだ。後は。
「私がいない間、どうするの?」
「んー? 葉羽くんにでも連絡しよっかなあ?」
「ああ、そう……」
みずきって、そんなに葉羽くんと仲良かったっけ?……よく部活中にいじってるけど。それに、葉羽くんのことをくん付け。なんだか、彼女に悪魔の尻尾が見えるような気がした私は、そそくさと家を出た。
階段を降りれば、冬だからかこの時間でももう日は落ちかけていて。手に息をふう、とかけた。白くて、温かいものが手の悴みを和らげてくれて。ぼう、と空を見上げた。まだ雲は少し見えるものの、もうじき真っ暗になってしまうのだろう。
すでに月が見えるくらいの暗さ。月は、私が耳につけたものと同じ形をしていた。
「東野」
振り返る。三日月と小さな金具がぶつかる音が耳元で鳴った。そこには、スポーツサングラスをしていない私服の友沢くんがいて。今から、この人と出かけると思うと、胸が締め付けられる。
「すまない、待たせたな」
「ううん、今降りてきたところだから」
「そうか」
彼は薄く笑って、私をとなりにおいた。何度かこの人とは一緒にいるけど、こんな気分は初めてで。それだけ、私にとって今日は特別。今でも、夢を見てるみたい。
「あー、東野」
「ん?」
「その、こういうのは俺が決めるべきかもしれないが……お前は行きたいところがあるのか?」
こんなたどたどしい友沢くん、見たことあったかな。初めてだらけだけど、少し綻んで楽になれた。そんな私を見て、友沢くんがあせり始める。
「で、出かける場所の候補はあるからな! 心配するな!」
「ふふ、心配なんかしてないよ」
こんな彼も珍しい。まだアパートから少し歩いたくらいなのに、もう十分満喫している。この後、どんなステキなことが待ってるんだろう。
「……あ、ねえ。駅の方に行きたいな」
「駅の方か」
「うん、私の地元とかと違って、イルミネーションが綺麗なんだよね。見に行っちゃダメ?」
「いや、もちろん構わない」
歩くスピードを私に合わせながら、頷いてくれた。ふふ、楽しみ。テレビでしか見たことのないイルミネーション、本物はどんな感じなんだろう。友沢くんのとなりとあって、いつもよりふわふわと浮き足だつ。
そのせいか、目の前でキラキラ輝くイルミネーションを見た時には、負けないくらい目が輝いた。
「わあ、キレイ! あっ、見てみて! あれ、サンタさんのイルミネーションだよ!」
「ああ、そうだな。……東野は初めてなのか?」
「うん、そうなの! 連れてきてくれてありがとう!」
すごい。あんなに小さい明かりがたくさん集まって、こんなにすばらしいものを作っているんだ。赤、黄色、緑、青、オレンジ、ピンク。数え切れないほどの色たち。その光景を見渡していると、私をじっと見つめる友沢くんと目があった。
「ご、ごめんなさい。友沢くんはつまらない、よね」
「いや、そんなことはない。イルミネーション以外にも楽しめるものがあるからな」
「そうなんだ、どこにあるの?」
「……いや、聞かなかったことにしてくれ」
ちょっと不思議な友沢くんだけど、楽しめてるならいいかな。そう思って、またイルミネーションに視線を戻した。
すると、大音量で点いたのはデパートについている大きな電光板。そこに出てきた可愛らしい女の子たちは、紛れもなく中高生に人気のホーミング娘。田舎出身の私でも、もちろん彼女たちのことは知っている。すごい、都会ってすごい。ホーミング娘の曲が街中に流れるなんて。しかも、知っている曲。嬉しくなって、流れるものと合わせて口ずさんだ。
「東野、この曲を知っているのか!?」
その時、友沢くんが私の肩をがしりと掴み、顔を近づけた。彼の剣幕にすこし、後ずさりする。
「う、うん。文化祭の曲を決める時に、穂乃果ちゃんたちと見たんだけど……センターの女の子がとっても可愛かったなーって」
引きつりながら答えると、彼の目がいつもの数倍輝き出す。
「さすが東野、わかるかこの良さが! 彼女はこの曲で初めてセンターを務めるから、そのために他のメンバーより何時間も練習したんだ! だから俺もホーミング娘の中でこの曲が一番好きなんだよ! 文化祭で東野にもやってほしかった……! いや、でもあれはあれですごく良かったぞ! もし来年も文化祭でやるのなら、その時はホーミング娘を……」
マシンガントークで語っていた友沢くんは、何かに気づいたかのように、凍りついた。そんな彼にかける言葉なんて、とっさに考えつかなくて。
「友沢くんって……ホーミング娘に詳しいんだね」
ひきつった笑顔で、そう言うしかありませんでした。