青春プレイボール!

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でも、彼より遥かに体力がない私。もちろん、そこに到着してから平然といられるはずもなくて。

「はあ、はあ……ついた……」

「……大丈夫か?」

肩で息をして、時間が落ち着かせてくれるのを待つ。なんか、とっても情けない。格好がつかないわけだ。吸って、吐いて。何度か繰り返したところで、ようやく穏やかになった。

「ここは……」

「バッティングセンターだよ。友沢くん、打てば元気になるかなって」

すると、彼は目尻を下げた。小さく喉をならす。そんなに笑うことだろうか。身体が熱くなった私は、彼を残してバッティングセンターに入っていった。友沢くんは、その顔のまま後ろからついてくる。その中は、クリスマスだからというべきか、クリスマスにも関わらずというべきか。多くの人がいた。

「あー! 1年の友沢亮!」

「えっ! パワ高の!?」

「夏は惜しかったなー、来年こそは頼むぜ!」

そして、野球で有名なパワフル高校の地元だからか、1年夏からレギュラーの友沢くんは知名度があって。並んでいたおじさんやお兄さんが場所を空ける。そこはさすが友沢くん、遠慮していた。
友沢くんが選んだのは、130km/hの変化球が混ざるブース。最難関。

「こんなところを選ぶなんて、すごいね。」

「ここだけはホームランを打てば無料になるからな」

「……そっか、がんばってね」

でも、友沢くんは友沢くんで。こういうところも、魅力だよね。まゆが下がってほほえんだ。私服のまま、備え付けのバッティンググローブをはめる。その姿が格好よくて。おそらく彼氏さんが打っている最中なのだろう、彼女さんの目をいくつか集めていた。極めつけに、肩にバットを掲げて振り返った彼がひとこと。

「東野が俺のことを考えて連れてきたのなら、俺もこれで返す」

何も言えなかった。その代わりに、熱が顔に集まる。ずるい、本当に罪なひと。どんどんすきになっちゃうじゃない。友沢くんはすでにピッチングマシーンと向き合っているというのに、私は頬を膨らませた。

最難関。確かにそのはずなのに、友沢くんの前じゃ関係ないみたい。

「すごいなぁ……」

「さすがパワ高野球部だ……」
 
快音を鳴らしてボールを飛ばす、飛ばす、飛ばしまくる。ついには、周りがほぼ手を止めて彼に魅入ってしまった。私も、そのひとり。
そして、ついに。友沢くんの打球が、吊るしてあるプレートに当たった。同時に、流れるのは明るい機械音。

彼はほくそ笑んだようなしたり顔で。

「これで、無料だな」

その場には似つかないようなことを吐いてみせた。
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