青春プレイボール!
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「あっはは、遊んだねえ」
「もーう、先輩のせいですからねっ」
「なによー、最初にふっかけてきたのは百合香ちゃんでしょー?」
お風呂から上がった私たちは、浴衣のまま布団をゴロゴロとしていた。もちろん、頭を置く方を一点に集めて、夜、おしゃべりする準備はできている。それにしても、先輩ってこんな性格だったんだ。初めて目撃した先輩の姿に、顔が綻んだ。やっぱり、こういういつもと違った生活は楽しい。
ふと、時計を見れば、晩ごはんの時間が近づいていて。行こう、と先輩が背中で引っ張った。
パワフル高校って、こんなすごいお宿を貸切にできるくらいお金持ちなんだ。それを改めて実感することとなった。晩ごはん会場はバイキング形式で、すでに部員が食べ始めている。
そんな中、私に気づいた猪狩くんが手を差し出した。葉羽くんもいて、彼は猪狩くんに懲りないなあ、なんて声をかけている。
「やぁ、東野。こっちへ来るんだ」
「猪狩くん、どうしたの?」
「食事の席は自由らしいからね。特別に僕のとなりに招待してあげよう」
いつものように、庶民らしかぬものいいで私の手を取る。それをチョップではたき落としたのも、いつものように、みずき。
「なにすんのよ猪狩、百合香はこっち。というか、百合香はあんたのとなりなんて望んでないし」
「ふん、そう言うと思って、しかたなく橘の席も用意してあるよ」
「みずきちゃん。そういうことなんだけど、どうかな」
それなのに、葉羽くんがやさしく笑いかけるだけで目を逸らす。……この子、チョロい。小筆ちゃんも見てるというのに、葉羽くんは罪な人だなあ。いや、みずきがゲンキンな子っていうべきなのかな。
「まあ、葉羽が来てって言うならしょうがないわね。」
先輩には、夜は寝かせないからと宣告を受けて私とみずきはその輪から離れた。私の隣を歩く猪狩くんの席はあそこだろう。そこから、少し視線をずらせば、進くん、友沢くんもいる。彼がいることにほんのりしあわせを感じつつ、通された猪狩くんのとなりに座った。
「百合香さん」
「進くん、こんばんは」
「ごめんなさい、友沢くんのとなりじゃなくて」
向かいの進くん。いいのに、そんなこと気にしなくて。友沢くんはこういう時、ひたすら食べているから、触らぬ神に祟りなし。事実、ななめ前の彼とは目が合わない。それを猪狩くんに言えば、品のない男だと一蹴されてしまった。
「これ、美味しそうね」
「あーっ! 俺、好きなものは残しておく主義なのに……!」
「みずきちゃん、オイラの分もあげるでやんす」
「矢部のはイラナイ」
そして、猪狩くんがいる方とは反対のところにみずきがいて。葉羽くんにまた迷惑をかけている。対する矢部くんには、冷たい。温度差の激しい女の子。ほらほら、矢部くんが泣いてるよ。
「矢部くん、それ、私にちょうだい」
「……百合香ちゃん!」
私が小さく立ち上がれば、喜んでフォークをこちらに向けてくる矢部くん。うん、美味しそう。ありがたくいただきます。
しかし、それを許さない人がいた。
「いや、俺がもらう」
ぱくり。まさに、獲物を奪われた気になる。矢部くんのとなりにいた友沢くんが、横から口に含んでしまった。矢部くんが声にならない声を上げているけど、本人は何食わぬ顔で自分のお皿に帰っていく。……もらえるものはもらっておく、か。見上げた心構えです。
でも、目の前に食べ物が差し出されておあずけをくらった私。お腹も空いているし、横取りされたそれをいただきに行こう。なんとなく、友沢くんがおかわりしに席を立つタイミングと、同じ時に実行。
さり気なくご一緒させてもらうと、友沢くんは私のお皿まで持つと言い出した。彼の性格は、ここ何ヶ月かでよくわかったから、素直にお願いする。
「ところで、翔太くんと朋恵ちゃん。1週間も置いてって大丈夫なの?」
私が気になっていたことを話せば、彼は緩く目尻を下げる。
「ああ、病院に事情を話して、母さんの病室に泊まっているよ。食事も頼みこんで買ったしな。気にするな」
「そっか。でも翔太くんも、朋恵ちゃんも、お母さんも、ここみたいに好きなものは食べられないんだよね……」
「安心しろ。タッパーを持ってきてある。最終日に詰めこむ予定だからな」
「タッパー? もしかして、持ち帰るための?」
「ああ」
でも、すべて杞憂だったようで。得意げにしながら盛りまくる友沢くんに感心する。本当に頼りになるお兄さん。だから、それに協力したくなった。
「じゃあ、帰ったら翔太くんと朋恵ちゃんに好きなもの、作ってあげようかな」
「……東野の手料理、か」
友沢くん、嬉しそう。ふたりも、そんな顔してくれたらいいな。