青春プレイボール!

□26
2ページ/4ページ



さすがに本格的な練習はできない1年生。そんな彼らに話しかけたりして緊張を解いてやるのもマネージャーの仕事です。

「久遠くん」

「東野さん! 会いたかったです!」

「ふふ、そう言ってもらえて光栄です。パワフル高校にしたんだね」

ぼんやり友沢くんを見ている彼に声をかけた。ぱぁっと表情を明るくする久遠くんは、文化祭の時のまま。かわいらしさは健在ですね。けれど、ここはグラウンド。彼の目はきりりと光を帯びる。

「僕、友沢さんを超えるために、ここに来たんです」

「……そっか、応援しているよ」

輝いてるな、久遠くん。目を細める。友沢くんを追いかけて、いや、超えるため、か。彼にとって、友沢くんは憧れなのだろう。また、視線がそこに戻る。でも、その目は切なげだった。
……文化祭で私に聞いてきたこと。あれは、友沢くんへの投影。久遠くんはきっと、ただ憧れて、追いかけてきた、それだけじゃない。
やめよう。部外者なのに。私がつっこんでいい問題じゃないだろう。目の色を変えない久遠くんに、がんばれ、と呟いて、私は彼から離れた。マネージャーなんだもの、ひとつのことを考えてられない、よね。ましてや、他の新入生もいるんだもの。手持ち無沙汰になっている彼らに、ドリンクでも渡しておこうかな。

「東野、ちょっとこっちに来てくれ」

ベンチに戻ろうとした私を呼ぶ声。頭の中は、ああしよう、こうしようと渦巻いていて、顔を向けるだけの返事。歩いて近づく。なぜか不機嫌そうだな。猪狩くんは、グラブを口に当てた。まるで、試合の時のように。そんなしぐさに疑問を抱きつつ、耳を傾けた。

「今、東野が話していたアイツ。なんだったかな、えっと……」

「久遠くんのこと?」

「そう。久遠と東野は知り合いなのかい?」

「うーん、なんて言ったらいいのかな。久遠くんは、友沢くんの後輩だよ。文化祭で会って、仲良くなったの」

「文化祭で会った、友沢の後輩……そうか、久遠がそうなんだね」

猪狩くんは、首をたてに振りながらも、表情をさらに険しくする。決していい気分のしないそれを見たくなくて、下がったまゆで作った笑顔。

「猪狩くん、そんな顔しないで」

「東野がこういう顔をしないからだよ」

「……ふふ、なにそれ」

しかし、思わぬカウンターを受けて破顔してしまった。そんな私を見てもなお、猪狩くんはおもしろくなさそうな顔を崩さない。笑っているのは私ばかり。いつしか、猪狩くんが、口に当てていたそれで私の頭を軽くはたいた。

「だから、東野は馬鹿なんだよ」

……バカじゃないもん。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ