青春プレイボール!
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そして、部活だけじゃありません。新学年。もちろん、クラス替えもあるわけで。
「じゃあ、授業を終わりにしますね。」
前の先生とは違って、おしとやかな女性担任。結構人気のある先生だから、ラッキー。ぺこりと頭を下げて、休み時間。ふう、授業つかれたなあ。そんなことを思っていると。
「百合香!」
みずきがばん、と教室のドアを開けた。勢いつきすぎだよ、人が近くにいたら凶器になりそう。大きな音で開かれ、名前を叫ばれたというのに、私を凝視するクラスメートはいない。それもそのはず。この2年1組では、よく繰り返される日常茶飯事だから。
ずかずかと一番後ろの席までやって来て、今度は私の机を叩くみずき。そして、いつものようにひとこと。
「なんで私と百合香が違うクラスなのよぉ!」
バシバシと手を緩めない彼女。さすがにこれから一年、お世話になる机がかわいそう。人差し指を突き出した。手はおひざ、めっ。
おとなしくなったみずきに、椅子を半分ゆずって背中合わせになる。それでも、気分ががっくり落ちていることはよくわかった。
「しかたないよ、自由にクラスを決められるわけじゃないんだから」
「でも、私といえば百合香、百合香といえば私じゃない!」
ね、ね、と手をパタパタ振り回して、周りに同意を求めだす。みんなもこくこく肯定しているみたいで、やっぱり、違う。彼女の3組は、なんと猪狩くんと友沢くんがいる。野球部に関していえば、前のクラスから私だけ抜けてしまったのだ。1組には、私のほかに、矢部くん、進くん、小筆ちゃんがいる。同じ部活の人がいることは、すごく心強い。
もちろん、そうなんだけど。親友であるみずきや、好きな人である友沢くん。やっぱり、違うんだよなあ。
「はあ……」
「百合香も、そう思うよね」
「まあね。正直、想像もしなかったよ、ホント」
ひとつの椅子の上で重いため息がふたつ。先が思いやられます。あ、チャイムが鳴った。帰らないと、と声をかける。すると、今度は足をバタバタ。
「百合香がいなかったら、猪狩と友沢しかいないじゃない! 超ムカツク!」
それでも、しぶしぶ立ち上がった。えらい。せめてもの、と思って私も立ち上がって廊下まで足を運ぶ。まだ、生徒たちの出入りが激しいみたいで。みずき、自分のクラスに帰っちゃうのか。ようやく、別のクラスになったことが現実味を孕みはじめた。
「たまには、3組に行くよ」
「ダメよ」
「えっ」
みずきが廊下で立ち止まる。不快感をそのままに、ぐっと細められた目。もともとかわいい顔をしているからこそ、その威圧感は測りしれない。つん、と眉間をつついてやれば、頬を膨らませた。もう。ああ言えばこう言う。
「だって、友沢と猪狩が群がるんだもん」
「……ふたりの性格上、そんなことないと思うけど」
わかってないわねえ。首を振られた。ついつい、ジトリと棒のような目をしてしまう。けれど、そんなことがマイペースな彼女に通用するだろうか。しませんね。なにごともないように、話題が一転。
「そういえば、あの1年誰? 百合香、結構気にかけてたよね。なんなの?」
「抑えて抑えて。あれは、友沢くんの後輩だよ」
「は!? なんで友沢の後輩と百合香があんなに親しげなのよ! 私の後輩、ひとりも知らないクセに!」
「あれ。それ、友沢くんじゃなくて、私に怒ってる?」
「どっちも! どっちかといえば友沢!」
静まりそうにないみずきに、やれやれ。首を振りたくなるのはこっちの方だ。困りごとを流すかのように、続く廊下を視界に入れた。もう、人通りがない。私たちだけ。そろそろ戻らなきゃ。本当に。
友沢のやつー、と歯をすり合わせる彼女を3組に返したところで、ようやく席へ。……静かだな、いないと。
今日は、パワ堂のプリンでも、買っていこうかな。