青春プレイボール!
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2年1組には、1年2組だった人があまりいません。みずき、友沢くん、猪狩くんはもちろん、セッちゃん、ハッチ、チカちゃん、リョウちんもいません。
だから休み時間になれば、みずきが来ない時は、彼女のところに行くのです。ぴょっこり、いじわる心。後ろからそっと近づく。ふふ、おどかしちゃおっかなぁ。手のひらを胸の前に持ってきて、構える。彼女は当然、気づいていない。長くて細い髪が、もう間近に来たとき、目はあるものをとらえた。
それは、机の上においてある、ノート。
そこには、葉羽くんと思わしき簡易的なヒトの図、それを中心に何本も伸びている線。先には、腕がたたみ切れていない、アウトコースが苦手、選球眼がある、など。
これは、もしかして。もしかすると。
「きゃっ!?」
彼女、小筆ちゃんの肩をガシリと掴む。悲鳴があげられたけど、そんなこと気にしてられない。だって、だって、これって。
「すごいよ! 小筆ちゃん!」
「百合香ちゃ……、み、見たの!?」
「うん! 葉羽くんのデータだよね、すごく細かく書かれてたよね、それ!」
感動をそのままぶつけると、彼女は顔を真っ赤にして、ノートを閉じた。スパァン!ものすごい速さだ。一方、意外な、そしてすばらしい一面を垣間見た私は、興奮冷めやらぬ。心の底から尊敬、脱帽。こんな、ここまで人を見ていたなんて。マネージャーの鑑とはこういうことか。
「おねがい! だ、誰にも言わないで!」
「え、どうして?」
「どうしても!」
そんなに、嫌なんだろうか。すごいことだと思うけどなあ。かーっ、と染まった顔と手が私の前に突き出される。メガネの奥の眼はこころなしか潤んでいるような気さえした。
「小筆ちゃんがそう言うなら……」
「ありがとう……!」
けれど、胸に手を当てて、にこり。本気でほっとしている彼女を見ていると、おせっかいなんだろうなと思えてきた。そういうことにしておこう。私は、もう一度ノートに目をやる。なんだか、すごく神聖なものに見えたそれ。ひょっとして、別の人のことも書いてあるのだろうか。
「ねえ、それって葉羽くん以外も書かれているの?」
「う、うん。気づいた程度で、だけど……」
「……見ちゃダメ、かな」
すごく見てみたい。特にみずきのデータとか。
そんな思いに負けて、あの小悪魔がよくやっている上目遣いを実践。あら、効いてるかしら。彼女は渋そうな顔をしつつも目を逃がした。
片想いに見つめてきて、しばし。小筆ちゃんは、ようやく首をうずめた。
「……百合香ちゃん、だけだよ」
「うん、もちろんだよ」
……我ながらゲンキンだ。もう、これは封印しよう。そうしよう。包みこむ罪悪感に耐えるように、許可がおりたノートに手を伸ばす。めくってみると、おお、みずきだ。左のサイドスローだから、クロスファイヤーが武器。ふむ、確かに。小筆ちゃん、よく見ているのもそうだけど、絵も上手だなあ。身体の輪郭だけなのに、誰かわかる。
あ、これは猪狩くん。非の打ち所がなさそうに見えて、フォークのキレにムラがある、か。へえ、そうだったんだ。……今度、意識して見てみよう。
先輩のデータもある。ぺらぺらと、手が止まらない。すごい、想像以上だ。ひとことしか書いていない人もいるけれど、全員分ある。
わあ、とか、へえ、とか。感嘆をあげながらめくりつづけていると、見たことのある髪型、長身がバットを握る画。友沢くんだ。彼には、首の下、お腹の上あたりから線が伸びていて、たったひとこと。
百合香ちゃんが大切
そう綴られていた。
形勢逆転。顔を熱くして、ノートを閉じた。スパァン!すごい音がしたけど許してね。びくりと震えた小筆ちゃんが反射的に、口を覆った。
「こここ小筆ちゃん……!」
「な、なに?」
「と、友沢くんの、なんであれしか書いていないの……」
「あ、えっと……友沢くんのこと観察したら、百合香ちゃんに悪いかなって。そしたら、友沢くんのことはあれしか知らないから……」
「そんなことないからね!」
恥ずかしくて、ノートを突き出す。彼女は、それを手に取ると、緩やかに綻んだ。ノートを机の上に置いた後、両手をぽん。まだ赤みがひかないでうつむいている私に、いいこと思いついた、と。
「友沢くんとか、橘さんとか、百合香ちゃんの方が近くで見ているし、よければ、一緒にこのノート、作っていかない……?」
「えっ、私も……一緒に?」
目を合わせた。小筆ちゃんは、どうかな、と嬉しそうに笑う。そんなの、私からお願いしたいくらい。こんなすてきなことに参加させてもらえるなんて。
色が変わらない顔のまま、コクリと頷いた。