青春プレイボール!
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「次!」
「はいっ! パワフル中学から来ました、ポジションはキャッチャーです!」
元気だなあ。というか、新人さんらしいフレッシュさ。ベンチからぼーっと眺める私とみずき。
「あ、アイツ」
「どのひと」
「あのタラコ唇の」
「ああ、うん」
「アイツきっと身体デカいだけよ」
「へえ」
パワフル高校の2年生に進級し、部活でもいわゆる先輩の地位を手に入れた。今日は、そんな後輩たちが部活を見に来るわけだけど、さすが野球の名門。見学期間とあってかものすごい。紹介だけで、どんどん過ぎる時間。さすがに飽きてきた……。ぐったりと沈んでいる私たちはもう、限界です。お家帰ってもいいですか。
はあ。図らずして出てきた息を止める気力もない。
「次!」
「はい!」
しかし、それは、図らずして止められることとなる。聞き覚えのある声に、顔を上げると。
「久遠ヒカル、ポジションはピッチャーです!」
見たことのある銀色、まっすぐとした紫。紛れもなく、あの久遠くんだ。
「百合香」
たまらずベンチから立ち上がる私に、みずきが声をかける。けれど、それに返せるほど、落ち着いていられなかった。足を動かす。新入生の自己紹介を聞かずに、素振りをしている、彼のもとへ。名前を呼ぶと、息をあげながら、バットの先を地面につけて。
「く、久遠くんが……!」
「久遠? ああ、そういえば。ここに来るって言っていたな」
「……知ってたの?」
「そうだが」
まったく顔色を変えないその人。驚き、嬉しさ、二人の懸念、様々な感情でできた複雑な私が薄れていく。影をなくして、鼓動が静かになる。
「……もう、知ってたなら教えてくれてもいいでしょ」
きまりが悪い。耐えられなくなってそっぽを向けば、彼の硬い顔が解かれた。ますます、きまりが悪い。
「はは、まさか東野がそんなことを気にしているとは思わなかったからな」
「私だって、久遠くんの知り合いだもの」
なおも笑みを絶やさない友沢くんに、踵を返す。けれど、心は再び弾みはじめて。久遠くん。彼を見て、こんな後輩がいたらいいなあって思ったんだもん。嬉しいものだよね。