青春プレイボール!
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「百合香と聖じゃない。珍しい組み合わせね」
「橘先輩」
「橘先輩なんてまどろっこしいから、みずきでいいよ」
「わかった、みずき」
「あ、そこまで飛ぶのね……」
私と聖ちゃんの近くにやってきたのは、汗をかいたみずき。なんと、このゴーイングマイウェイ娘に苦笑いをさせるなんて。聖ちゃん、ただものじゃない。でも、ここは便乗して私も気軽に呼んでもらおう。
「聖ちゃん、私も東野先輩じゃなくて、百合香でいいよ」
「そうか、では百合香と呼ぶぞ」
「うん、改めてよろしくね」
「こちらこそだ。百合香の特製ドリンク、美味しかった。また作ってもらえるか?」
「もちろん」
ふふ、思いの外かなり距離が近づけたみたい。嬉しくて、下がる目尻を抑えられないでいると。
「百合香、特製ドリンクってなに!? 私まだ飲んでないわよ!」
みずきにほっぺをつつかれた。そうね、そういう子だったね。この子は。親友なんだからなんでも一番は私、と胸をはる彼女をなだめる。……悪い気はしないけど。
「みずきも飲む? まだ残ってるけど」
「ふふん、もっちろん!」
彼女には気兼ねしないから、水筒をそのまま渡す。全部は飲まないでね。気の抜けた返事を聞いてから、顔を上に向け、喉を鳴らす姿を眺めた。ぷはー、となかなか豪快に飲んでくれた彼女。聖ちゃんとは対照的。
「いつもより、フルーティーね!」
「ああ、それは感じたぞ」
「ふたりとも鋭いね。これはね、リンゴ酢とハチミツが入っているんだ」
「へえ、よし。決めた! 次から私のドリンク、全部コレね!」
「百合香、私も頼みたい」
しかも、ふたりからはご好評。なんとリピーターにまでなってくれるようで。まかせて、と笑顔を浮かべる。今日帰ったら、明日のために作っておかないと。
私が作ったり、考えたりしたものを誰かが口にしてくれて、それを評価してくれる。そのことが嬉しくて、楽しくて、たまらなかった。
早くスポーツドリンクを作りたい。
時を同じくして。
「葉羽、行くぞ!」
「よーし、こい!」
フリーバッティングをしていた葉羽くん。その打球は、当たりの強いファール。しかし、ドライブ回転をかけてしまったのか、打球は変則的にバウンドしたのだ。
私はというと、みずきと聖ちゃんの要望に喜んでいる最中。もちろん、その様子を見ているはずもなく。
「危ない!」
投げられた声で、ようやく気づいた。目の前に迫ったボールに。何が起きているの。そんなこと、考えるよりはやく。
「大丈夫か、百合香」
真っ白な瞳の、彼女に助けられました。
「あ、ありがとう……聖ちゃん」
呆然としながら言えば、聖ちゃんの目はいつもの赤い色に戻っていた。なに、なんだったの。聖ちゃんだって、葉羽くんが打つところは見ていなかったはず。それなのに、あの打球を、しかも、そうだ。素手で。
「聖ちゃん! 手、手は!?」
「私は平気だ」
聖ちゃんの手は、確かに怪我はしてない。あんなに回転のかかった球を掴んで無傷なんて。
「百合香ちゃん! ごめん、大丈夫!?」
けれど、焦った様子で私のもとに来た葉羽くんによって、思考を中断。聖ちゃんが助けてくれたことを話すと、彼も安心したのか、大げさに息をはいた。
「葉羽! お前……!」
前虎後狼、とでもいうのか。背後から友沢くんが、ものすごーく怖いお顔で打った本人を睨む。げ、と振り返った顔を歪めただろう葉羽くん。
「東野に当たったらどうするんだ! もっと気をつけて打て!」
「気をつけて打つってどうやるんだよ!」
「開き直るな!」
「いや違うから!」
なんとかしてよ百合香ちゃーん! と、私のもとに来て嘆く葉羽くん。しかし、逆効果だったのか、ついに、友沢くんがキレてしまった。
「東野に近づくな!」
「お、おちつけよ友沢! 誰か助けてー!」
「待て! お前には報いを受けてもらわないと気が済まない!」
いよいよ、葉羽くんと友沢くんの鬼ごっこが始まり、本格的に、私にはなにもできなくなる。ごめんね、葉羽くん。彼には悪いけど、聖ちゃんに意識を向けた。なんだ、と不思議そうな顔。助けてもらったのに、そんな表情をすることが不思議だよ。
「聖ちゃん、本当にありがとう」
「かまわない。百合香に怪我がなくてよかった」
「……でも、私は聖ちゃんが怪我をしたら悲しいからね」
「……覚えておく」
喜怒哀楽がわかりづらいけれど、やさしい子だってことはよくわかった。六道聖ちゃん、彼女とはうまくやっていけそうです。
……そういえば、もう片となりが静かですね。
「今の打球に反応するほどの集中力と反射神経……見つけた」
見なきゃよかったかも。怪しい顔をしていた。