青春プレイボール!

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小平くん、彼はどうやら友沢くんに憧れているらしくて。相も変わらず有名人な友沢くんに頭を抱えたくなった。だって、なんて言われたと思いますか。友沢さんの彼女ですもんね!だって。すごい人のとなりに立つって恐ろしい。

「プレッシャーだなぁ……」

「気にするな」

「そんなこと言われても……もう、友沢くん、もっと力抜いてよ」

「……俺に言うな」

久遠くんと小平くんもさすがにデートだとわかると、離れて行ってくれて、ようやくふたりきりになれたけど……。こんなにため息だらけなんて。
デパートに立ち寄るけれど、どっちもあまりお金を使いたくないから、ウィンドウショッピング。そんな中、本屋さんを見つけて、彼の隣を離れた。手にとったのは週刊パワフルスポーツ。少し前の童話のようなふたりを思い出してつばを飲み込む。……よし。ぺらぺらめくってみる、と。

「……あれ」

めあての話題は載ってなくて。その代わりに、私の目をつかんで離さない記事。

「どうしたんだ」

後ろから来た友沢くんも、私が読んでいる記事をのぞきこむ。そのとたん、動きを止めてしまったけれど。

「……やっぱり、すごいね」

それは、でかでかと写った友沢くん。おそらく、ユニフォームから秋大の時の写真。夏直前特集、だって。すごく、すごく遠く感じた。最近、料理が趣味ではあるけれど、それ以外はなにもない私と、こんな雑誌に載るほどの友沢くん。

「東野、」

覇道高校の木場くん、星井くんよりも大きく組まれている友沢くんのページ。猪狩くんもいるけれど、友沢くんは投手から転向したこともあってか、天才的センスを持った遊撃手、なんて謳われている。

「東野!」

「は、はいっ!」

「……こんなもの、表面しか見ていないヤツらの戯言だ」

「…………」

何を考えていたのか、気づかれてしまったのかな。眉を下げて、どこか元気のない友沢くんと目が合う。そんな顔、させちゃダメだよね。デート中なのに。雑誌を閉じて、口と目で弧を描いた。

「ふふ、何言ってるの。評価されてるんだから喜んだ方がいいよ。友沢くんが努力しているのは、私とかチームメイトがちゃんとわかってるんだから」

「……東野」

「さ、行こっ」

声高く、背中を向けた。そんなことを言ったんじゃない。彼の顔に、そんな言葉が浮かんでいて、これ以上見てられなかった。私だって、こんなことが言いたいんじゃない。煙のようにわきあがるそれにふたをして、むりやり頬を上げた。

友沢くんと本屋を出ると、彼がいきなり私の手首を握った。な、なに。驚いていると、そのまま早歩きでどこかに向かう。いや、どこかに向かうより、とにかくアテもなく歩いてるという方が正しいか。

「どう、したのっ」

着いて行くことが精一杯の私には、息切れが生じてきて、とぎれとぎれ。けれど、彼は振り向きもしない。こういうときは、なにかあるんだろう。おとなしく引かれることに。
しばらくそのままでいて、ようやく友沢くんが息をついた。待っていましたとばかりに顔をのぞきこみ……たいのはやまやまだったんだけど、私は片腕を上に吊るされたまま、もう片手で膝をついた。

「東野! すまない……」

「い、いえ……どうか、したの?」

手を開放されて、それも膝に落ち着く。顔だけ見上げれば、友沢くんは悔しそうにまゆを歪めていて。申し訳なさそうに、口が静かになった。

「……会いたくない男がいたんだ」

「会いたくない、ひと……?」

友沢くんに、そんな人がいるんだ。……どんな人なんだろう。おとなしくなった呼吸とともに、背筋を正す。けれど、聞いちゃいけないよね。あまり見ないようにしようと、体は彼に向けつつ、逸らしたのは顔。
そんな私を見てか、友沢くんもそういえば、なんて不自然に話題をすり替えた。

「デート、まだちゃんと楽しめてないな」

「……私は、一緒にいるだけで楽しいよ」

本音をそれとなく織り交ぜれば、薄く笑った友沢くん。仕切り直し、だよね。まだデートは始まったばかりだもん。彼に流されるように、目を緩めた。
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