青春プレイボール!

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夏のメンバーは、大きく入れ替わることはなかった。

「以上だ」

監督の声に、うなだれる先輩。最後の夏だけど、実力主義とは非情で。2年からは猪狩くんを筆頭に、進くん、友沢くん、みずき、あおいちゃんが一軍入り。葉羽くんと矢部くんは悲しみで嘆いていたものの、すぐ切り替えていた。記録員は先輩で、私もスタンド入りだからふたりと小筆ちゃんと一緒に応援しよう。
部活のあと、すでに着替え終わった私とみずき。どこか上機嫌そう。

「ふふん、もうレギュラーは当たり前ね!」

野球部でありながら、スクールバッグを貫く彼女がそれを肩にかける。こら、そっちは左でしょ。さりげなく彼女の左隣に移動すれば、ようやく右にかけなおしていて、安堵。

「1年秋から一軍入りなんてすごいよ。……ご褒美に甘いもの食べにいこっか」

「えーっ! なになに、百合香からなんて珍しいじゃない!」

「ふふ、たまにはね。それに、話したでしょ。リベンジしたいところがあるって」

「あー、百合香が食欲なくてケーキを食べれなかったとか言ってたアレ?」

「そうそう。今行こうよ」

やった、と空いた腕をつき上げる。進くんと食べに行ったケーキショップ。あの時は、とてもとてもみずきと行けそうになかったけれど、もう行ってもいい、よね。親友なんだから。

「さーんせーい!」

それに、こんなに嬉しそうにしてくれてるんだし。どこにあるのと目を輝かせるみずきを連れて、ずっと動き回ってたはずなのにこっちだよと地面を蹴った。もちろん、それに遅れる野球部じゃない。私の横に並んで、笑顔ふたつ。少し汗ばむことなんて気にならなくて、目的のそこへ時間はかからなかった。
店の前に立てば、目を大きくさせる彼女。へへ、驚いてるのかな。素直な反応に身体が温かくなって。

「入ろ、ね!」

にっこりスマイルで、中へ。一度来たことはあるけれど、気持ちの問題か、ショーケースに座るケーキ、店員さんの声、おいしそうに食べる女の子たち、どれもこれも初めて見るように思えた。ふたりでケーキたちをのぞきこむ。近くで見ると、ますます魅力的だ。

「おいしそうー! ね、百合香はどれにするの?」

「うーん、今日はチョコケーキにしよっかなぁ。あ、でもフルーツケーキもいいなぁ……」

「私もこれとこれで迷ってるの。あー、もう、困っちゃうなあ」

他のお客さんに場所を譲って、今度は大真面目な顔ふたつ。私たちからしたら、大問題なんです、これは。
みずきを見てみましょう。ほら、彼女も眉をよせているでしょう。マウンドに上がった時のような顔をしているでしょう。

でも、ずっとそうもしてられない。なんとか決断。お互いこれだ、と思われるそれを買ってテーブルへ。
悩んで悩んで選んだとはいえ、あっちもよかったなぁ、なんてうすら考えているのは秘密だ。
また来ようかな。太る? ……う、動くもん。

結局、私が選んだのはフルーツケーキ。なんとなく、フォークではなくスプーンを手にとった。生クリームとともにオレンジをすくうと、それだけで素敵。とってもかわいらしくて、惹かれる。

「いただきますっ」

「あーん、もう、ケーキ最高!」

ぱくり。ふたりして、高い声と一緒にほっぺたを落とさないように押さえる。口のなかでじわっと広がる甘さ。女の子がメロメロになっちゃうそれ。うん、みずきの言うとおり。ケーキ最高。

「百合香、ひとくち交換しよ!」

「うん、もちろん!」

「お互い、あーん、ね!」

「ふふ、もう。しかたないなあ」

みずきのザッハトルテが目前に出される。食べたかったチョコケーキだから、キラキラ光って見える。百合香も、と急かされてモモと生クリームたっぷりのスポンジを拾う。どこからか取り出した携帯を彼女が構えるものだから、気恥ずかしくてそっちに目をやることができなかった。
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