青春プレイボール!
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「友沢くん、待って。……あの、話したいことがあるの」
一度目を伏せて、強く見据えた。劣等感を感じて、隠しごとばかりしている私。それじゃ、だめだよね。ぽつりと紡がれた言葉に、彼の顔がひどく動揺した。
そして、部活を終えて。公園にいるのは、私ともうふたり。
「…………」
「蛇島先輩、久しぶりですね」
「せ、先輩!?」
「まさか、蛇島先輩が俺のファンでいてくれたとは」
「……いや。君の活躍は常々聞いているからね。投手として肘を壊した後も、元気そうでなによりだ」
目の前の蛇島さんは、友沢くんを見つけて驚いた顔をしたものの、すぐに笑顔を見せた。そして、友沢くんの言うことが本当なら、蛇島さんは彼のファンではない。どういうことなんだろうか。
「蛇島さん、友沢くんの先輩だったんですか!?」
「ん、ああ、まあそうだよ。悪かったね、隠しておいて」
「蛇島先輩は、俺の中学の時の先輩なんだよ」
「へえ、そうなんだ」
なるほどね。ひょっとしたら、蛇島さんは恥ずかしくて、ファンなんて言ったのかも。後輩の活躍を楽しみにしているなんて、面倒見のいい人だな。それに、友沢くんの先輩なら、彼のファンって言われるより、ずっと心のつっかかりがとれる。
「友沢くん、キミはまだ野球を続けていたんだねえ」
「……俺はこれくらいで、諦めるわけにはいきませんから」
「そうか、見上げた精神力だな。クックック……」
しかし、ふたりの間に流れるものは、どこか不穏なもので。気のせいかしら、ふたりは先輩、後輩……なのよね。
「あの……立ち話もなんですし、喫茶店にでも入りませんか?」
おずおずと声をかけると、ようやく私を注視する蛇島さんと友沢くん。それもそうだなと微笑みかけてくれた彼氏さんに続くように、蛇島さんも頷いてくれて。あれ、きっと気のせいだったんだよね。うん。言い聞かせるように、私も首をひとつ、縦に振った。
なぜか、決定権を委ねられた私は手ごろなカフェを選択。店内には、キレイなウエイトレスさんがいて、営業スマイル。あの制服、かわいいなあ。こんなところでバイトしてみたい。
「ここは先輩である僕が出すから、友沢くんも東野さんも好きなものを食べていいよ」
「本当ですか、ありがとうございます!」
「……友沢くん。食べすぎちゃダメよ」
「はは、東野さんはまるで友沢くんのお姉さんだねえ」
メニュー表とにらめっこをする友沢くんはいつものことだから放っておきつつ、蛇島さんに頭を下げる。身長差もあって、お姉さんなんて言われたことがないからか、ちょっと気取ってみたくなっちゃった。
「友沢くんの分は、行き過ぎたら払いますから……」
「気にしなくていいよ。女の子に出させるのは、マナー違反だからね」
「……紳士な方なんですね」
あっけなく砕け散ったお姉さん精神。ここは年上の紳士さんに任せよう。そう思った矢先、友沢くんが顔を上げた。
「紳士、ね……」
目を閉じて呟いた彼に失礼でしょ、と釘をさそうとしたものの、それはかなわない。
「まあ、そう思っていてもらえたら嬉しいね」
薄く目を開いて、私を見た蛇島さん。そこはかとなく冷たく感じて、ブルリと身震い。
「わ、私、ミルクティー頼んでもいいですか?」
「ええ、もちろん。かまわないよ」
「じゃあ俺は、ショコララテで」
「ショコララテだね。僕はコーヒーでも注文しようかな」
あわてて話題を切り替えたけれど……なんだろう。このふたり、やっぱりなにかあるのかな。少しだけ、疲れがたまる、ような。そんな感じ。