青春プレイボール!

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4回、未だ1-0。あおいちゃんもねばっているけど、毎回ヒットが出ていて、流れが瞬鋭に傾いているのは明確。

「そろそろ、点がほしいね」

「そうだね……早川さんのため、にも」

葉羽くんと小筆ちゃんの言うとおり。あおいちゃんはただでさえなんとかしのいでいる状態なのに、援護がないのは精神的に苦しいはず。

「コラーッ! あおいさんのために打ってきなさいよ友沢ぁ!」

ベンチからみずきの声がここまで聞こえてくる。平常運転だな、なんて聖ちゃんがあきれ顔。そうだね。似たような顔で返してから、好打順、クリーンナップからだと士気を上げてみた。

3番の先輩を見つつ、久遠くんを盗み見る。やっぱり。彼の温かいとは言い難い目はサークルにしゃがみ込む友沢くんに釘付けで。どことなく不安になりながらも、何もできない自分を隠すように応援を続けた。
先輩はレフトフライ。いい当たりだっただけに、腕も、手も、指も、脱力。
力んでいるよーなんて瞬鋭守備陣からの煽りもんく。それは私の方らしい。
次のひと、サークルから腰を上げた。もう一度久遠くんを見る。穴が空いてしまうほどそのままでいても、気づかれないくらい、彼は一心だった。何を考えてるのかな。わからない。……でも、友沢くんにそんな顔をするような、悲しいことを考えてるんだろうな。
調子が悪いのか、運も悪いのか。友沢くんはセンターライナー。久遠くんの顔がまたひとつ、険しく、寂しくなった気がした。先輩として、心配だ。

試合も終盤に差しかかろうとしていて。4回も5回も動きはなかったが、6回表、無死一二塁。このままじゃ、と固唾をのんで見守る中、出てきたのは猪狩くんだった。
あおいちゃんが悔しそうに、けれどまっすぐとボールを手渡す。あおいちゃん、降りたくないだろうな。ベンチに帰るときに見えた顔が、彼女らしくなかった。あんなに、眉間にシワを寄せた姿は、初めてだ。
けれど、代わりに立った彼。やっぱり、どこか期待感やエースという風格があって、一人で流れを変えてしまいそうな気すらする。
あおいちゃんは、そういうところでも悩んでいるのかもしれない。……すごいひとのとなりにいることだけであんなに考えたのだから、それを出し抜こうなら、どれくらい大変な思いをするか。きっと、私の想像以上だろう。
でも、あおいちゃんはしっかりやってくれたよ。おつかれさま。届かないなりに、彼女をじっと見つめた。

「しっかり切ってくれよ猪狩ー!」

「あおいちゃんが降りてしまったでやんす……! ぐすっ」

猪狩くんはバッターとしても優秀、いわゆる二刀流選手。これで、打線にも弾みがついてくれたらいいのだけど。
進くんに何球か投げていくマウンド上の彼は調子が良さそう。ストレートが走ってる。……さすがに投球練習の間じゃ、ライジングショットは投げないか。練習でも実践形式の時とか、目立つところでは一球も投げてなかった。私も、あの一球しか見たことがないし、いつごろ解禁するんだろう。

下位打線を三者凡退で抑えた彼に、客席は大騒ぎ。だけれど、本人からしたら当然のこと。ずいぶんと温度差が激しい。猪狩くんらしいな。努力の天才さんを眺めていると、ベンチに戻ろうとしたその人と目が合う。小さく手を振れば、珍しく笑顔でキャップを掲げて返してくれた。
ふむ、今日は調子だけじゃなくて、機嫌もいいらしい。

「さすが猪狩先輩だな」

「猪狩さんか、友沢さんがずっとライバル視していた人……」

「あおいちゃんだってすごいよっ」

「さっすが百合香ちゃん! わかってるでやんす! あのおさげといい、いつもはやさしいのに怒ると怖いところといい、あおいちゃんは最強でやんす!」

「や、矢部くん、百合香ちゃん……そういうつもりで言ったんじゃないと、思います……」

「小筆ちゃんの言うとおりだよ、矢部くん。というか、あおいちゃんのことよく知ってるんだね……」

猪狩くんがすごいのは、もちろんそう。だけど、あおいちゃんだって頑張ってるんだから。じゃなきゃ、マウンドから降りるとき、あんな苦しそうな顔はできない。

「みずきだって、あおいちゃんだって、すごいんだから。……いつか、猪狩くんからエースの座を奪っちゃうくらい」

猪狩くんも努力しているけど、それはひとりじゃない。誰かにつぶやくでもなく、パワ高の攻撃を見守った。
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