青春プレイボール!

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しばらく、嗚咽を繰り返した久遠くん。だいじょうぶ、だいじょうぶ。そんな気持ちで手を行き来させていると、泣きはらして赤くなった目とかち合った。

「落ち着いた?」

「……はい」

腕をほどいて、また膝を折った。同じ高さ。上から見たらわからなかったけど、頬には涙の跡ができてる。

「そっか、よかった。……この後はどうするの?」

「……やっぱり、友沢さんの口から聞きたい、です」

「うん、そうだよね」

「でも、いつも話してくれないですし、僕はどうしたらいいのか……」

そう言われてみれば、そうだ。友沢くんは、久遠くんの知りたがっていることを話す気はなさそうだった。うーん、と頭を悩ませる。そんな時だった。ドアをノック、2回。いきなりのことで、すっかり姉の顔をしてしまった自分をたたく。両頬がちょっぴり痛かったけど、やむを得ない。
どうぞ、と声をかけるとそこから現れたのは、話の渦中にあった人。友沢くん、そして、葉羽くん。

「友沢さん……!」

顔を荒々しく腕で拭った久遠くんは、椅子から立ち上がる。私が見上げる側になって、横に退いた。まだ、赤い目。……ふたりは、わだかまりができているだけ。本当は、とっても仲がいいはずなんだよね。絶対、そう。

「百合香ちゃん」

「……うん」

葉羽くんに呼ばれて、部室にふたりを残す。いつも見ている背中よりは小さいけれど、私を、久遠くんを止めてくれた彼。黙って、ついていった。

どちらともなく、誰もいない場所、グラウンドから離れた水道で立ち止まる私たち。葉羽くんが、ようやく振り向いて、目が合った。まだ、いつもより鋭い眼差し。

「久遠は、友沢を恨んでたのか?」

「ううん、とっても尊敬しているよ。憧れすぎて、裏切られたショックが大きいんだと思うな」

「……誤解しているんだろ、友沢がコンバートしたこと」

「そう、逃げたって……友沢くんが肘を壊したことを知らなさそうだったの」

苦しそうな顔を思い出して、シャツの胸のあたり、色が変わった箇所を握りしめた。それは、何かを祈るようにも見えて。久遠くん、その憧れのからまりが解けますように。

「友沢も、話してくれたんだ。中学の時のこと」

「久遠くんとの、こと?」

「うん。友沢は中学の時、肘にかなり負担がかかるスライダーを投げていたんだ。だからこそ、投球制限をされていたらしいけど……でも、久遠に教えるために、自分が一歩先を歩いてなきゃいけないと思ったらしいよ」

「それで、肘を壊すほど投げこんだんだ、久遠くんのために……。友沢くん、らしいね」

ほら、こうして久遠くんは後輩として着いていって、友沢くんは先輩として引っぱっていこうとしてた。絶対、大丈夫。ふたりの間に、絆はある。顔、険しくなってるよ。葉羽くんの指摘に、あわてて笑みをつくった。

「不器用だよな、友沢。久遠には、コンバートのことをこう言ったんだ。
投手は充分堪能したから、次は遊撃手で自分の力を開花させたいって」

「やっぱり、肘を壊したことは、話してなかったんだ……」

「ああ。去年、ここの野球部全員には話したけど、中学の時のチームメイトで、知ってるヤツはひとりもいないんだってさ」 

「……友沢くんは、友沢くんなりに考えて、話さなかったんだね」

「壊した時期も、3年引退直前だったからな」

「そっか……」

友沢くんと、文化祭で久遠くんに出会って、パワフル高校に入学してきて、ずっと友沢くんを追いかけて、追い越そうとして。泣くほど苦しんだ久遠くん。それと同じくらい、友沢くんも辛かったんだろうな。でも文化祭で会った時、友沢くんを越えると言った久遠くんに笑いかけた顔。あれは、大切な後輩を相手にするものだったから。

ふたり、大丈夫だよね。

つぶやくと、葉羽くんはもちろん、と微笑んだ。
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