青春プレイボール!

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「はー、疲れた。……東野さんのせいですよ。友沢さんを怒らせるから」

「ご、ごめんね。試合前に」

めっきり、久遠くんにお説教されている私。ここはスタンドで、もう試合開始は目の前。みずきがマウンドに上がる。こうして見ると、やっぱり彼女は小さいな。……私の方が小さいから、あまり大きな声で言えないけど。

1回。SG高校の攻撃は、みずきの前に三者凡退。低めにしっかりと集まっている。いい立ち上がりに、聖ちゃんが小さく拍手を送っているのが見えた。
しかし、パワフル高校の攻撃も同じく、三人で終わった。進くん、いい当たりだったんだけどなあ。矢部くんも葉羽くんも、おしいー、と頭を抱えていて、ふたりともよく似ていてるね。

試合が動いたのは2回裏、パワフル高校の攻撃だった。先頭打者は、4番、友沢くん。仲直りしたての久遠くんが、必死に声を出して応援する。

「百合香ちゃん……友沢くん、だよ」

「うん! がんばってー!」

「くそー! 彼女に応援してもらうとかなんなんだ、リア充はんたーい!」

「これで打てなかったら、男の恥! 恥でやんすよ!」

「……相変わらず、見苦しいな」

素直な気持ちで、しっかり声を出す久遠くんと、不純ながら応援する葉羽くんと矢部くん。なんだかんだ、彼への声援がものすごい。がんばって。人一倍だと自負できるくらいの思いをこめる。
あっちの先発は伊貫くん。コントロールに定評がある選手。それでも、彼はボール球を見送って、決してあまいところではないストレート。迷いなく振り抜いた。打球は勢いよく飛んでいく。フェンス直撃。ツーベースだ。

「わあ、すごい……!」

つい、声を漏らしてしまうと、久遠くんがそれを見ていて。友沢さんにごほうびでもあげてください。そんなことを言われた。ごほうびって、何をあげればいいのかな。

「……デートする、とか?」

「あまい、あまいよ百合香ちゃん!」

「先輩、なんだか気色悪いぞ」

「結構すごいこと言いますね、六道さん……」

でも、久遠くんが言うことも一理ある。……今度、お昼を作ってデートに誘ってみようかな。お金もかからないしね。先輩のヒットで、友沢くんがホームイン。ベンチに戻ろうとした彼と、目が合ったのは気のせいじゃない。親指をつき立てて笑うと、顔を小さく綻ばせて同じようにしてくれた。
かっこいい、な。
パワフル高校は先制点をあげ、このまま勢いにのる。そう、思われた。しかし、SG高校は点差を考えないような、大胆な攻撃をしかけてきた。それに捕まったのはみずき。3回に2点、4回に1点と取られて、あっという間に形勢逆転。パワフル高校がSG高校を追いかける立場となってしまう。

5回を被安打3でありながら、併殺をひとつ。なんとか無失点で凌いで、額を拭う彼女。役目を終えて、ベンチに帰ろうとする姿から目が離せない。

「みずき……」

これからパワフル高校の攻撃だというのに、不安が募って消えてくれない。
そんな私の手をとったのは、聖ちゃん。赤い目が、いつものように微動だにしないまま、じっと見つめる。

「百合香、私たちは応援することしかできないぞ」

「そう、だよね」

聖ちゃんの言うとおり。彼女の手をきゅっと握りしめて、みずきにありったけの声を送った。 

「みずき、負けるな!」

イニングの間だからか、思いの外、声は響いて。

「まっかせなさい!」

明るい声が、帰ってきた。よかった、潰れてはないみたい。ほっ。聖ちゃんのもとを離れて胸に当てられた手。けれど、それは意外な人によって、取り上げられてしまう。その人は、真剣な目をしていた。

「あの、久遠くん……?」

「東野さん……」

「ややややや矢部くん! 憧れの先輩の彼女を奪っちゃう系のアレだよ!」

「だ、奪略愛でやんすぅ……!」

「へ、え……!? 百合香ちゃん、ピンチです……!」

「……京野先輩まで、なにを言ってるんだ」

外野が騒いでいるけど、正直なところ、久遠くんしか見えなかった。だって、だってだって。……奪略愛だとか言ってるけど、そんな熱っぽい視線じゃないから。ちょっと、不機嫌そうな視線だから。あの、ともう一度声をかけると、久遠くんはその表情のまま吐き捨てた。

「友沢さんにはないんですか、そういうの」

なぜ、拗ねたような顔でそんなことを言うのか。まったくもってわからない。気づけば、葉羽くんたちも試合に戻っていた。
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