青春プレイボール!

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ジャージ姿の星井くんと、部活の時とは程遠い私。どこかミスマッチだけど、それを覆すほど顔が整っているからか。すれ違いざま、頬を染める女の子がちらほらいる。ごめんなさいね、私なんかが隣にいて。

本屋さんで料理の本を購入したあと、あてもなくぶらぶらと歩き回ることに。ようやく、星井くんが重い口を開いた。

「……東野さん、覇道のエースは誰だと思う?」

「えっと、木場くんと星井くんのダブルエースだよね」

「そう言われているけど、絶対的なエースは木場なんだ。本当に大切な場面、任されるのは僕じゃなくて、木場なんだよ」

「…………」

彼に暗雲がたちこめる。それは、パワフル高校でも言えること。みずきやあおいちゃんが猪狩くんに対して、思っていることなんだろう。

「覇道の練習はすごくハードでね。それについていくだけじゃ、木場は越えられない。あいつは、本物の怪物だから」

「怪物……」

「うん。だから、練習量で木場に勝とうと思って、1時間前から練習するために高校に行ったんだよ。……そしたら、ね。木場がすでにいてさ。1年のころから僕の本気の決意を上回ってたんだ。野球への情熱だけは、誰にも負けないと思っていたのに……」

星井くんを見ると、目が合うことはない。唇を噛みしめて、俯いている。

「それに、両親の仕事の都合で引っ越しすることになったんだ」

「え、引っ越し?」

「そう。……一緒に、僕も転校しようかと思ってるんだよ。野球を、捨てて」

「野球を、捨てる……!?」

そんな、野球をやめるなんて。思わず立ち止まってしまった。当の本人は、東野さん、と不思議そうで、寂しそうな顔をしている。どうして、木場くんに勝てないから? だから、野球をやめちゃうの? すがるように聞くと、星井くんはギュッと目を閉じた。

「マネージャーの東野さんには、わからないよ」

再び歩き始めた星井くん。慌てて追いかける。頭が冷たくなった。そうだよ、私はただのマネージャー。選手と同じ立場にたとうなんて、片腹いたい、よね。……それなら、マネージャーとして言ってやる。少し反省したのち、料理本が入ったビニールが音を立てた。

「そうだね、ごめん。……じゃあ、パワフル高校のマネージャーとして、私の話を聞いて」

「……え?」

ふふ、てっきり黙ると思ったのかな。星井くんの開かれた目を見つめて、私は、と切り出した。

「木場くんは、確かに豪速球を武器にしているものすごい選手だけど、星井くんには星井くんの武器があるんじゃないかな。そう、思うよ」

「……変化球のこと?」

「うん」

「でも、それをもってしても、とても木場にはかなわない。アイツには、才能ですでに負けてるんだ……」

あぁ、なるほど。友沢くんが才能って言葉で片付けられるのを嫌う理由が少しわかった気がする。でも、星井くんのがんばりを才能とやらでくくられるのを、私自身がむっとしてもどうしようもない。それに、本人が気づいてくれたらいいんだけどな。

「才能か……星井くんにとって、才能ってなに?」

「え? うーん……初めからある野球センス、かな」

「じゃあ、才能がある人は、ない人に比べてどうなるの?」

「えっと、練習の吸収が早かったり、すぐ上達したりすると思うよ」

「そっか、それじゃあ才能があったら、毎日同じメニューなんてしなくてもいいんだよね」

「……え?」

「あれ、違うの? 星井くんがいう才能ってそういうものだと思ったけど……」

神高くんにしたように、口でまるめこんでしまえ。ちょっぴりズルいけど、星井くんが自分で気づいてくれなきゃ意味がない。頭をフル回転。星井くん、気づいてよ。努力してるのは、キミも同じでしょ。

「そういうわけじゃないけど……あれ、なんだろう、才能って……」

「星井くんだって、さっきまでランニングしてたよね。あれ、どうしてやっているの?」

「どうしてって、毎日やるから体力づくりになって……うーん、そしたら、才能ってなんなんだろう」

「ふふ、なんなんだろうね」

そうそう、才能なんて言葉、うやむやでいいんだよ。意味も明確じゃないものを計ることなんて、できないもんね。顎に手を当てて考え始める星井くんに、いやらしくにやりと笑みがこぼれた。
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