青春プレイボール!
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みずきとやって来たのは、グラウンドのかなり端。すでに聖ちゃんがマスクをかけている。こんなところで投げるのかな。ブルペンに行けばいいのに。
「百合香、見ててね」
「う、うん」
「よーし、聖! いくわよ!」
「……あぁ」
膝をついた聖ちゃん。どこか陰のある彼女に、みずきが振りかぶる。クレッセントムーンだ。そっか、猪狩くんと同じところで練習したくないんだな、みずきは。
負けず嫌いだな、がんばってるなぁ、なんて顔が綻んだのも束の間。私の口は、開いたまま閉じなくなってしまった。
「……」
「やっぱり、私には無理だ」
いつものように、淡々と話す聖ちゃん。彼女が、捕球できなかったのだ。しかし、みずきはそれが気に食わないらしい。
「できるわ、聖なら」
「みずき、私にクレッセントムーンは捕れない。今まで通り、猪狩先輩に受けてもらえないか」
「投げない! 私はもう、聖以外にクレッセントムーンは投げないって決めたんだから!」
「……すまん、別の練習をしてくる」
聖ちゃんが立ち上がったことで、事実上この話はおしまい。けれど、みずきはそれとはほど遠い顔をしていて。
去っていく聖ちゃんを眺めていた私を百合香、と低い声で呼ぶ。彼女が何を考えているのか。怒ってるの、悲しんでいるの。黙って後ろを着いていくことしかできない。
「……ドリンク飲む」
「うん……みずき」
「なに?」
星井くんのことが浮かんだ。結局、星井くんを変えたのは猪狩くん。私じゃ変えることなんてできなかった。でも、みずきのことなら、私が助けられるって思いたい。ベンチで、リンゴドリンクを渡した。
「困ったことがあったら、頼ってね」
「……わかってるわよ」
マネージャーとしてじゃなくて、親友として、彼女の力になりたい。ぐびぐびとドリンクを飲む彼女から、目が離せなかった。