青春プレイボール!

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夕暮れがグラウンドを赤く染めるころ、練習に句読点が打たれた。結局、みずきはどこか静かで。気にしているんだろうな、聖ちゃんのこと。
そして、彼女を気にする私。そんな、三角関係のような構図に気づいた人もちらほらいるみたい。
練習中にはあおいちゃんに声をかけられ、クレッセントムーンの成功も彼女が助けたことだからと、みずきと聖ちゃんのことを話した次第。
ぼーっとふたりのことを考えていると、私の背中に声が飛んできた。

「どうしたんだい」

「え?」

「百合香さん、なんか雰囲気が重いから……。なにかあったの?」

「僕が聞いてやろう」

「いえ、なにもないよ。気づかってくれてありがとう」

なかなか鋭い猪狩くんと進くん。さすが、いつも人のことをよく見ているだけある。でも、汗を流したままでいるのはよくない。早く着替えてきなよ、ふたりに感謝して足をうながした。
身長差のある兄弟の後ろ姿を見て、はぁ、息をつく。ありがたいことだけど、心配はかけさせないに越したことはない。……まぁ、ふたり以外にもう気づく人はいないだろう。

「東野、どうしたんだ」

「な、なにが?」

「元気がないですよ。東野さん、なにかあったら友沢さんに言ってくださいね」

「おい久遠……まぁ、そういうことだ」

「そんなことないよ。ごめんね、心配かけて」

「いや、なにもないならいい。お前は頑張りすぎるところがあるからな、無理はするなよ」

「うん、ありがとう」

……ふたり以外にもう気づく人はいないだろうと思っていたのに、久遠くんはとにかくとして。鈍い、というか天然の気がある友沢くんにすら心配されるなんて。こりゃ、相当なんだ。
猪狩くんたちと同じ顔をするふたりに、彼らと同じことを言う。更衣室へ歩いていく姿を見送った。

さて、あおいちゃんはどこかな。キョロキョロと見渡すと、発見。シャドーピッチか、さっきまであんなに練習していたのに。

「あおいちゃん」

「あ、百合香。おつかれさま……とはいえないカオをしているね」

「そ、そう思う?」

まぁ、それがいいところなんだよ、とふわり、目尻を下げる彼女に乾いた返事をして近くのベンチに座った。それを見て、腕をおとなしくさせたあおいちゃんも隣に座る。
こうしていると、クレッセントムーンを完成させた時のことを思い出す。結局はあおいちゃん、というか選手頼みなんだよね。……いやいや、マネージャーとしてじゃなくて、親友として助けるって決めたじゃない。私にもできることはあるはず、弱気になるな。

ぐるぐるめぐる思考に、自然と手が顎に置かれていたらしい。あおいちゃんによって、その手を払われて。いつかの試合のように、私に寄りかかった。
彼女は、不思議だ。なんだか安心してしまう、とでもいうのかな。まるで花みたいな魅力に誘われた私。少し高めな肩に、頭を預けた。
あったかいなぁ。気持ちが落ち着く。たったこれだけなのに、ずーっとこうしていたい気分。思わず破顔した。

しかし、そう思っているほど、世の中はうまくいかないらしい。

「あ、いたいた。おーい、百合香、あおいさ……って、矢部! あんた、なにスマホかまえて連写してるのよ! このヘンタイ!」

「へ、ヘンタイ!? それはいわれのないことでやんす! オイラは、ふたりがいい雰囲気なのを……」

「何言ってるのよ、こんなものー!」

「あああああ! オイラの通信手段んんん!」

遠くの方から叫び声、怒鳴り声が聞こえてきて、彼女と目を合わせて立ち上がる。
行こっか。そうだね。短く交わして、発声源に行けば、土だらけになったスマホを泣きながら払っている矢部くんと、腕を組んで不機嫌を露わにするみずき。これはこれは……ひと悶着あったんだな。
彼女の名前を呼ぶと、その顔は一瞬で輝き始めて。つくづくゲンキンな子だと思います。そんな顔されたらなにも言えなくなってしまうじゃない。

「百合香とあおいさんに話があったんだ!」

「ボクでよければ、なんでも聞くよ」

「じゃあ、来てください!」

「え? あ、まってよみずき!」

突然走り出した彼女の背中を追う。後ろから矢部くんがあーだこーだ言ってるけど、ごめんね、追いかけるのが最優先です。

制服で走りづらい。みずきも制服を着ているはずなのに、足が速いのは日頃鍛えている賜物なんだろうな。にしても、一体どこに行くんだろう。

「ムムッ! 惜しくもあおいちゃんはユニフォームでやんすが、百合香ちゃんは制服!」

「矢部さん?」

「ちょっと下から覗き込めば……オイラのスマホ、出動でやんす!」

「友沢さーん! 矢部さんが東野さんのスカートの中の写真を撮ろうとしてます!」

「ちょっ、久遠くん!? 何言ってるでやんすか! ヒィッ、友沢くん!」

「……矢部、いい度胸だな」

「友沢くん、クールに、クールに! いつもの君に戻って欲しいでやんすよ!」

「問答無用だ」

「ひえぇ! 葉羽くん、助けてええぇ!」

「待て! その携帯の中身を確認して消去させろ!」

「……あれ、そういえば、葉羽さんはどこにいったんでしょうか」
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