青春プレイボール!

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「私が?」

「そうだよ」

「猪狩くんと?」

「ああ」

「……でも、マネージャーが来るところなんて少ないんでしょう?」

「いや、そうでもないさ」

秋大会が近づくころ、組み合わせを決める抽選会も無論、あるものです。そこに新チームのキャプテン、猪狩くんが行くのは当然なんだけど、なぜか私まで来いと言われています。顧問の先生も来るんだし、私は必要ない気がするけど、本人は話し相手がいなくて暇だとか。あなた、何しにいくんですか。

「とにかく、キャプテンがこう言ってるんだ。来たまえ」

「……ここぞとばかりにキャプテンの権限を使うのね」

「はは、キミに拒否権はないよ」

「うーん、後が怖いから行きます……」

「よし、それじゃあ行くぞ。制服に着替えてくれ」

あれよあれよと口車に乗せられ、気づけば制服に身を包む私。なんというか、自分で自分が心配になってくる。

「猪狩ぃ、それくらいひとりで行きなさいよぉ。もしかして、寂しいの〜?」

自分で言わなくとも、代わりに言ってくれる人がいるから、こんな自律性のない子に育っちゃったのかな。みずきが私の制服の裾を引く。彼女の挑発は猪狩くんに無意味で、むくれてしまったが。
そして、それだけで送ろうとしない人がひとり。友沢くん。フリーバッティングをしていたはずの彼は、気づけば猪狩くんの横に来ていた。いらだったご様子だ。バッティングピッチャーを務めるあおいちゃんの声が、「そっち行かないようにしてたつもりなんだけど、ごめんねー」と遠くから聞こえてきた。あなたが謝る必要はないよ、あおいちゃん。

「だいたい、東野が行く必要はないですよね」

「ふん、友沢は嫉妬かい? やれやれ、相変わらず見苦しい男だな」

「猪狩さんこそ、東野はすでに俺の彼女ですよ。小さいころ、人のものを盗ってはいけないと教わらなかったんですか?」

「盗るなんて人聞きの悪いことを言うねえ。それに、そんなことで手に入れたつもりかい?」

「なんだと……」

「そもそも、東野はものじゃない。彼女が誰とどこに行こうが、キミにとやかくいう権利はないはずだよ」

だんだん、話が大きくなっていて私やみずきの出る幕もない。このふたりの言い争いに加勢したところで、いないものと同等に扱われることは、お互い学習している。私はほら、合宿前に仲裁しようとして無視されたしね。

「百合香、あんた毎日大変ね」

「うーん、必要とされてるのはありがたいはずなんだけど……」

なんだか、違う気がする。私の制服から手を離したみずき。大人になってくれたんだね。目の前のふたりよりワンランク上の人間に見えるよ。
しかし、抽選会には集合時間もある。それにあおいちゃんも、ごめんごめんと駆け寄ってきて。練習をしていたのに悪いな。一刻もはやく、この不毛な争いを止めなければ。

制服を着てしまったからにはしかたない。友沢くんのユニフォームをつんつんと引いて、意識を向けさせた。

「友沢くん、もう着替えちゃったし行ってくるよ」

「……今すぐジャージに着替えろ」

「はは、聞こえなかったのかい? 東野は自分で行くと言ったんだよ」

友沢くんが、私を猪狩くんとふたりにさせたくない思いで言ってくれてることはわかってる。……私だって、逆の立場ならきっと嫌な気持ちになると思うから。でも、ひとたび同行すると言ってしまったわけだし、遊びにいくわけじゃない。しかめ面で立ち尽くす彼に、背伸びをした。

「練習、がんばって!」

大きな身体に届くように手を伸ばして、鮮やかに輝く髪に触れる。友沢くんよりだいぶ小さい私が彼の頭を撫でるなんて、傍から見たら不思議な光景なんだろうけど。にっこりスマイルを送ってみる。友沢くんは、ぽかんとしていて。

「東野、行くよ」

「あ、うん」

掲げていた腕を掴まれた私は、そのまま猪狩くんに引かれていく。友沢くんの顔を見ることはできなかった。でも、私の応援も届いてくれてたらいいな。

「ひゃー、百合香もすっごいねえ。さすが小悪魔みずきの親友ってところかな」

「いや……あおいさん、親友の私が一番びっくりしてます」

「友沢ー、ちょっと俺のフォーム見てくれよ……って、あれ?」

「……なんだ、葉羽」

「お前、顔赤いぞ。熱でもあるんじゃないか?」

「べ、べつに大したことじゃない」
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