青春プレイボール!

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病院を出て、待ち合わせ場所に向かうとすでに友沢くんがいて。はやいなぁ、まだ時間は来ていないのに。

「友沢くん、おまたせ」

「……東野の家はこっちだろう? どうしてそっちから来たんだ」

「うん、病院に行ってたの」

「怪我でもしているのか?」

「ううん、友沢くんのお母さんのお見舞いだよ」

「……そうか、ありがとう」

目を細めた友沢くんが私の髪を撫でる。それを言いたいのは、こっちの方。背伸びして、彼の髪を撫でかえしてやった。

「友沢くんこそ、昨日は心配して探し回ってくれたんでしょう? ありがとう」

「なっ、どうしてそれを……!」

顔を赤らめてそっぽを向いた彼。手も、私の頭からは離れていった。あっ、一歩後ずされちゃ、私の手まで届かなくなっちゃうじゃない。久遠くんが言っていたことを話すと、彼は「アイツ……」と片手で顔を覆ってしまった。こんなレアな友沢くんが見れるのも、彼女の特権だよね。へへ。

「見せつけてくれるなぁ、くそーっ」

しかし、そんな雰囲気も横から飛んできた声で終わりを告げた。私はあわてて彼から離れて、その主を見る。な、なぜ、彼がここにいるの。そこには、いつも見る練習着。

「は、は、葉羽くん!」

「……どうしてここにいるんだ」

「友沢、露骨に嫌な顔しなくてもいいじゃん!」

は、恥ずかしい。もしかして、さっきの会話とか聞かれてたのかな。友沢くんからもう一歩距離をとる。

「俺は走り込みだよ。友沢みたいに新聞配達のバイトしているわけじゃないから、この時間なんだ」

「新聞配達?」

「あれ、百合香ちゃんは知らなかったんだ。友沢は早朝ランニングついでに新聞配達のバイトをしてるんだよ」

そうだったんだ。隣の友沢くんを見上げると「そういえば、新聞配達中、葉羽に会ったことがあったな」と頷いていた。他にもバイトしてるのか……えらいなぁ。本当に、人ばかり支えているんだろうな。
しかし、葉羽くんは眉をつり上げる。

「部活とバイトを両立させるなんて、普通はできないだろ。無理してないか?」

「心配無用だ。俺は、好きなアーティストのCDが欲しいだけだからな。気持ちだけもらっておく」

「……友沢、俺たちは同じチームメイトだぞ。困ったらいつでも頼ってくれよ」

この言葉。彼ならきっと、友沢くんの支えになれるかもしれない。まじめな顔でこんなことを言えるなんて、本当に優しいひとだ。友沢くんもこころなしか、声が明るい。顔は無表情なんだけれどね。

「葉羽くんって、頼りになるね」

「え、そう? へへ、照れるなぁ。百合香ちゃんもなにかあったら、頼ってくれていいからね」

「……鼻の下を伸ばすな」

友沢くんの腕に引かれて、また彼の隣に逆戻り。葉羽くんは相変わらずだな、なんて笑ってるけど、私は掴まれたところが熱くて、ちょっぴりいたたまれなくなる。
そんな葉羽くんが、ぱん、と手を叩いた。

「ところで、友沢の好きなアーティストって誰なんだ?」

「……別に」

顔を背ける彼に、こっそりと耳打ち。

「葉羽くんなら、話してもいいと思うよ」

「……ほ、ホーミング娘」

あら、案外あっさり話した。と、それを聞いた練習着の彼は目を丸くする。けれど、軽蔑を感じるような雰囲気はない。「へぇ、ホーミング娘か! かーわいいよなぁ」と、またデレデレし始めるくらい。

「葉羽くんも好きなんだね」

「そりゃね!」

「そ、そうなのか!?」

「おう、だってかわいいじゃん」

「……そう、かわいいんだよな」

あっ、友沢くんのスイッチが切り替わった気がする。彼を見ても、まったく目は合わない。葉羽くんも、言いようのないその雰囲気を感じたのか。ともざわー?と呼びかけた。

「アイドルは心の礎、華奢な身体で俺たちに引けをとらないほど努力して、観客の前じゃいつも笑って、その愛らしさを振りまく! これほど崇高なものはないと思わないか!」

「お!? おう……」

つめよられてる。ごめんね、葉羽くん。手を合わせてアピールすれば、震える手が振られて気にしないで、と。気にしないでいられるような状態ではないです。……というか、アイドルに対するかわいいって、そこまで深い意味だったのね。話を聞いたらわかるような気もするけど……って、だめだめ、雰囲気にのまれないの、わたし。

ただ、葉羽くんが友沢くんの弁論中にこそりと私を呼んで口にしたこと。

「いくらイケメンでも、嫌じゃないの? こんなアイドルオタク」

「んー、アイドルが好きなのは嫌だと思ったことないよ」

「いい彼女だな、百合香ちゃん……!」

いい彼女。そんなことないよ、友沢くんをこんなにも楽しそうな顔にさせてるのは、葉羽くん、あなただもん。
彼の顔はとても、イキイキとしていて。ああ、こんな顔するのなら。

「友沢くん」

「なんだ?」

「私にもホーミング娘のこと、もっと教えてよ」

うん、我ながらナイスアイデア。そう思っていたのに、なぜか葉羽くんにはびっくりされました。
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