青春プレイボール!

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「で、この子が一番人気があるんだよ」

ホーミング娘のグッズショップにて。葉羽くんの説明に、頭の中のメモへ教わったことを書き留めておく。そっか、私が一番かわいいなあと思うあの子は、3番目に人気があるのか。

いや、それにしても。

「みんな、かわいいねぇ」

私の知り合いの中じゃ、雅とかみずきとか可愛い子はたくさんいるけれど、さすがプロだ。洗練された……とでもいうのかな。かわいいポーズ、かわいい角度をわかっている。目の保養だ。つい破顔してしまうと、葉羽くんが黒髪の女の子を指差した。

「俺、この子のファンなんだよー! 百合香ちゃん、似てるよね」

「えーっ、こんなにかわいくないよ」

「いや、似てるってぇ」

目尻がゆるゆるとしている葉羽くん。こんなにスタイル良くないし、顔も平凡。並んで比べることすら申し訳なく思えるよ。けれど、ほめられて嫌な気はしない。結局、ありがとうと受け取ると、今度は友沢くん。

「俺は、この子だな」

彼が指を差したのは、本人をそのまま女の子にしたような金色の髪と、翡翠の目をしたエネルギッシュな女の子。私とは正反対。

「百合香ちゃんと全然違うじゃんかー」

葉羽くんもそう思ったみたい。しかし、友沢くんは不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。

「何言ってるんだ、好きなアイドルと彼女は別だろう」

「そうなのか?」

「当たり前だろ、東野は容姿だけで好きになったわけじゃない」

どきりとした。こうして、友沢くんが口に出して私に好意を示すのは珍しい。恥ずかしい、けど、嬉しい。葉羽くんの前だというのに、触れた彼の腕。それを見た葉羽くんはやはりというかなんというか。「あーあー、もう本当リア充め。幸せそうで何よりですよーだ! 俺は練習に戻る!」そんなことを吐き捨てて、店を出ていってしまった。

「……葉羽くん」

二人きり。葉羽くんが俺も彼女ぉぉ!と走り去った方を見ていると、友沢くんがため息をつく。どこか、疲れてそうな顔。

「東野とふたりで出かけるときは、どうしてこうも邪魔が入るんだろうな」

「ふふ、3人でこういうのを見て回るのもいいけど、ふたりになれるのは嬉しいね」

友沢くんが、私の腕を引いてお店を出たことで、私のホーミング娘の勉強会は終了。彼女たちの知識が、少しでもこの人を支えることにつながればいいな。
そういえば、どこに行くんだろう。彼を見ていると、その視線に気づいて私に振り返る。その顔は、思いついたように口を開いた。

「東野、昼ごはん作ってきてるんだろう?」

「うん」

「もらってもいいか?」

「もちろんだよ!」

あなたのために作ったんだから。楽しみにしてたのかな、それが嬉しくて、留まることを知らない。へへ、もう、ほっぺが言うことを聞いてくれないよ。

「ど、どこで食べようかっ」

けれど、高揚のあまりか。つい、声が裏返ってしまった。くすくす笑った友沢くんに、いい気はしない。上がった気持ちは地に落ちる。表情に出ていたのか、気に入っている場所に向かっている最中だとなだめられて、あれ、子ども扱いされてるのかな。

しばらく、彼の後ろを歩いているとたどりついたのは原っぱの広がるのびのびとした公園。開放感があふれてきて、手を思い切り伸ばした。空気が心地良い。

「東野、こういうところは初めてか?」

「ふふ、実家はこんな景色ばっかりだよ。むしろ懐かしいくらい」

吹きぬける風、髪を耳にかけた。

「……食べよっか」

「そ、そうだな」

そのまま膝をたたむと、お弁当を開く。感嘆の声を漏らす友沢くん。えっへん、早起きして頑張ったんだから。食べてみて、と誘うと手を伸ばしてくれて。私より長い指が、箸を操って彼の口に運ばれた。どうかな、おいしいかな。じっと見据えていると、彼が緩く目を細めた。

「美味いな、いつもどおり」

きゅん、部活ではあまり見せない優しい顔に、単純なほど私の心は鳴った。やっぱり、かっこいいな。

「あ、ありがとうっ」

「どうした? 顔が赤いな」

「……もうっ、なんでもないよ」

天然の気があるのが、本当に本当に、ズルイ。私も箸を口に入れた。ふふ、味見どおり。ふくらんでいたほっぺも落ちそうになる。

「東野は、こういう風景が似合うな」

「田舎出身だからかな」

「いや、東野だからだよ」

しかし、天然さんは怖い。いきなり何を言うかと思えば。私は動かしていた手を止めてしまった。供給の途切れた口が空っぽになる。でも、それは彼も一緒。不意に、時間の流れが動かなくなった。

「さっき、葉羽に言ったことだ」

私は、ゆっくりとうなずく。

「俺は、東野の容姿だけで好きになったんじゃないからな」

また、ふうわりと微笑むものだから、さらに私の鼓動が早くなって。照れ隠しに、自分の箸を彼の口につっこんでやった。すると、今度はあっちのばん。簡単に顔を赤らめるものだから、天然さんって怖いな。友沢くんより、色の濃い頬を隠した。
こんなので、彼を支えられているのかな。熱い頭でぼんやり考えたけれど、まだ、よくわからないや。
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