青春プレイボール!
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秋大会、決勝。誰もが想像したように、ここの地区はパワフル高校と覇道高校の試合。もうすでにベンチ入りしなければならないはずの私は、監督のご厚意で矢部くんの病室にいた。
「あー、オイラってば罪深いオトコでやんすねぇ……友沢くんの彼女に、そんな切なげな目をさせるなんて」
「もう、何言ってるの……ほんとに、心配したんだから。でも、ありがとう。雅ももう実家に帰っちゃったけど、お礼してねって何度も言われたよ」
ベッドから身体を起こす矢部くんの顔は湿布だらけ。メガネは新しいものか、キズひとつないけれど、そのぶんケガのひどさが際立つ。肝心な足は一時的な痛みだけだったから、あの件がなければ、今ごろグラウンドを駆け回っていたことだろう。
私は彼のベッドの横に置いてある椅子に腰掛けた。
「……でも、矢部くんがいなかったら、どうなっていたかわからないよ」
「オイラ、かっこよかったでやんすか!?」
「そうね、すごくかっこよかったな。雅が女の子だったら、惚れちゃうくらいに」
矢部くんは、にんまりとほっぺたを上げた。湿布が伸びちゃうよ、小さく諭してみても、彼はその顔をやめない。対照的に、私はつまらない顔をしている。たくさんいたみを味わった矢部くんと、見ていただけの、私。
「……ごめんね、見てるだけで」
「男は黙って女の子を守るもんでやんす! あっ、雅ちゃんは特別枠でやんすよ」
彼の献身的な言葉。守られて助かったし、自分の身を呈してあの場に飛び込めるほど、私は勇敢じゃない。そのくせ、代わりに怪我を負った矢部くんに、申し訳ないと思うなんて。矛盾だ、どうすればよかったんだろう。太腿にかかる制服のスカートを握った。
「……友沢くんにも言われたから、気にしないでほしいでやんす」
「友沢くんに……?」
「背負われてる時のことでやんす」
意外な人の名前に、顔をあげる。矢部くんは、眉をきっとつり上げて男らしく私を見つめた。
「東野を守ってくれたこと、礼を言う。ありがとう……ただ、お前も立派な俺のチームメイトだ。無茶はするな」
「それ、友沢くんのマネ?」
「そうでやんす」
「……ふふっ」
なに、言ってるんだか。こんな場面で声を低くして、友沢くんのものまねなんてするものだから、手を口元に押さえて緩むのを押さえる。それを見た矢部くんは、にへらぁと彼らしく破顔した。
「心配は、友沢くんから百合香ちゃんの分ももらったから、もういらないでやんす!」
「……そっか」
「オイラも友沢くんのチームメイトとということは、とうとうライバル認定……!」
「うん、まずは早く治そうね」
あんな風にクールで一匹オオカミなところがあるけれど、友沢くんはチームメイトを信頼している。中でも厚い信頼を置いているのが、葉羽くんと矢部くんとみずきだろう。……男の子ふたりは気づいてないみたいだけど。
しばらく会話を交わしたあと、腰を上げて病室を出る。おだいじに、と言葉を残すと元気に手を振られた。安静にしなきゃダメなのに……もう。それに振り返してしまう私も、あまいのかもしれない。