番外編
□小悪魔下準備
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「でさ、その時の芸人の顔が面白くってさー!」
「……そうなのか」
友沢の席に葉羽がいる。……そういえば、百合香、友沢がどうとか言ってたわよね。百合香は泣いていたし、友沢は暗い顔をしている……。ふたり、ケンカしたとか?
……ふっふっふ。なんか面白くなりそうな予感だわ。修羅場ってやつ。これは、誘うしかない。あっ、でも、もしもケンカ中なら、百合香の名前を出したら来ないよね。どうしたらいいかな……。
それなら、出さないで誘うから……はっ、これだ。思いついた。私ってやっぱり天才ねー。
「じゃじゃーん! ふたりともちゅうもーく!」
「みずきちゃん、どうしたの? やけにテンションが高いね」
「葉羽、放っておけ。またどうせろくでもないことだ」
ムカつくこと言ってくれるわねコイツ……。
でも、知ってるんだから。百合香と出かけた日の夜に、なかなか話してくれない百合香から苦労して聞き出したんだから。友沢がバイトしなきゃいけないくらい、お金に困ってることを。見てなさいよぉ。
「ふふん、クールな友沢くんもいつまでそんなこと言ってられるかしら?」
「みずきちゃんがくん付け……うう、寒気が」
「これを見なさい!」
「これ……? こ、これは超高級料理店のディナー無料券!? ここって、すっごく人気のあるところだよね!」
お、友沢の目の色が少し変わった。猪狩にごちそうになった時といい、やっぱり友沢はタダに弱いのね。ふふふ。
「そうなのよー! 先輩から奪っ……雑誌の懸賞にちょっと送ってみたら当たっちゃってね。私って、ツイてる! このチケットはね、3人までフリーなの。だから、行きたい人は挙手してね。早い者勝ちよ!」
「はい! はい、はい!」
「葉羽確定ー! はい、あとひとりよ」
「……くっ」
露骨に行きたそうな顔してるじゃない。早く手を挙げればいいのに。
「あれあれ友沢くん、行きたくないの? 美味しい料理たくさん食べられるのに? 持ち帰りもたくさんできるのに?」
「くそっ、……はい」
「あ、あの友沢が手を挙げた……! 立派だぞ!」
ふふっ、クール気取ってるヤツを思い通りにするのってたーのし! せっかくだし、もう少し遊んでやろっかなー。
「やっぱりルール変更ー。最後のひとりは挙手の際に、お願いしますみずき様って付け加えてくださいー」
「……橘!」
悔しそう、悔しそう。あの友沢がお願いしますみずき様って言ったら、野球部にバラしちゃおっかなー。そしたら、百合香も引いちゃいそう。いいかも、それもアリ。
「……まるで小悪魔だね」
「で、どうするのかなぁ? 友沢くん」
プライドが邪魔するってところねぇ。食欲とどっちをとるんだろー。
「がんばれ友沢! 言ったら負けだけど、それは決してはずかしいことじゃないぞ!」
「お……おねが……、……ダメだ! 俺には言えない!」
「よく頑張ったぞ、あとは俺に任せろ! お願いします、みずき様。みずきちゃん、これくらいで勘弁してやってよ」
はぁ、葉羽が言うんじゃ、つまんないじゃなーいっ。まぁ、この後のお楽しみもあるし、友沢は連れてってやらないと、か。
「もー、しょうがないわね。じゃあこれくらいで許してあげるわ」
「ありがとう、みずきちゃん!」
「じゃあ来週の日曜日、18時に駅前よ!」
よし、あとはひとりだけ。百合香を誘えばオッケーね。後に回すと忘れちゃいそうだし、今行こうかな。1組に。
百合香、これを機に友沢と別れたりしないのかなー。もちろん百合香の幸せは願ってるけど、ショージキ、友沢よりも私といる方が楽しいと思うのよね。百合香も楽しいし、独占できるし、一石二鳥! やっぱり私って天才ねぇ。
一番後ろに、えーと。あ、いたいた。
「百合香!」
「みずき……。どうしたの?」
「じゃーん!」
「えっ、それ……。す、すごい! 有名なお店だよね!」
百合香と一緒に行きたいなぁ。目をうるるる。こうすれば、絶対に断られないもんね。
「いいの? 嬉しいな、ありがとう。」
「いーって、いーって。じゃあ18時にお店に入ってて!」
「え、一緒に行かないの?」
あ、やば。一緒に行きたいなぁって言い方はまずかったかしら。冷や汗。なかなか鋭いわね、さっすが私の親友……!
「あー、ちょっと用事があって。ほら、予約しとくから、取り消しになったら困るでしょ?」
「ああ、なるほどね」
ふう、なんとか納得させられた。予約はめんどっちーけど、しかたないか。
さ、当日どうなるのかなー。今からワクワクしてきちゃう。百合香の友沢への本音を聞かなきゃ!あわよくば、別れさせなきゃ!