青春プレイボール!

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「いっただっきまーす!」

「うむ、最高だ」

「…………」

この子たち、本当にゲンキンだと思います。だって、あれだけぎゃあぎゃあ騒いでおいて、結局お互いの好きなものにおちついて。今、こうしてしあわせをかみしめている。
一方の私は、お店にいる人たちにペコペコ頭を下げながら、一番平和な選択肢として抹茶シュークリームを頼んだ。ほら、和洋折衷です。
こうして、お皿がみっつ乗せられたトレーを席まで持ってきたころには、ふたりの機嫌はもとどおり。私はどっとつかれた。いえ、まあ、私が原因だからしかたないといえばしかたないんだけどね。……もやもやとした気持ちをかき消すように、抹茶シュークリームを目に映した。

「百合香、食べないの?」

「ああ、食べる食べる」

手にとって、ぱくり。口の中でふわりと広がる、重さの感じさせない抹茶クリーム。うーん、甘いものはこれだからやめられない。抱えていたつかれも、身体からふうっと抜けていった。自然に甲高い声がもれて、目がふにゃりと細くなる。

「美味しい……」

「部活の後のプリン、これさえあれば生きていけるわ!」

「それには同意だな。野球をした後のきんつばは至高だ」

ぱくぱくとお皿の底をあけていくと、甘いものはなんとやら、もう食べ終わってしまった。小さいのにカロリーは高いから、もう食べることはできない。それでも破顔しっぱなしで、まるで恋する乙女だ。抹茶シュークリームの味を忘れないよう、全神経を舌に集中させた。

ふと、聖ちゃんが時計を見ていたから、私もそれを追った。部活帰りに来たせいか、いい時間だ。

「みずき、お前は寮だろう。大丈夫なのか」

「ああ、時間のこと? 大丈夫よ。なにかあったら百合香の家に泊まるから」

「家に泊まる? そんなにいきなり百合香の家に行っちゃ、迷惑だろう」

「私、ひとり暮らししてるの。だから大丈夫だよ」

そっか、聖ちゃんはみずきを心配していたんだ。彼女のやさしい赤目を眺めていると、私まで同じ気持ちになってしまう。
しかし、みずきが放った言葉で、それは一色に塗りつぶされた。

「聖は大丈夫なの? あんたの家、寺なんでしょ」

「聖ちゃん、お寺に住んでるの!?」

知らなかった、驚きだ。こくんと首をたてに振った聖ちゃんは、目をぱちくりさせながら「言ってなかったか」とふしぎそうにしているけど、聞いてないよ。
でも、違和感はない。たしかに和菓子が好きだし、文化祭でも和服を見事に着こなしていた。私だったら、服に着られていたことだろう。

「……今日は、大丈夫だ」

あれ、なんでだろう。言っていることは肯定的なことなのに、彼女の目がくもって下に落ちる。明らかに、雰囲気の沈んでしまった彼女に、私とみずきが顔を見合わせるのは、当然のことだった。

「聖ちゃん、その……今日はってどういうことかな」

おそるおそる聞いてみると、彼女は元気の戻らない顔で私を見た。踏みこんでいいのかわからないけれど、手を膝の上で握りしめる。瞼に力をこめて、ぐっと持ち上げた。聖ちゃんは、私の真剣な表情に負けたみたい。ひとつ、息をこぼす。

「……西満涙寺、聞いたことがあるか」

「ああ、そんな名前のお寺だったわねえ」

「ごめん、私まだこっちのこと詳しくないから……」

「いや、気にするな」

聖ちゃんは、私をじっと見つめた。安心させたがっているのかな。にこりと、ありがとうを添えた。

「昔から、葬式の仕事で忙しいんだ。お父さんが」

「聖ちゃんのお父さん……」

「ああ。家に帰っても、誰もいない」

すっと目を閉じた彼女。家に誰もいない、ひとりぼっちの気持ちはよくわかるつもりだ。でも、昔からって言ってた。もしかしたら、聖ちゃんは幼いころから家でひとりぼっちだったのだろうか。……今の私ですら、家にいる時の夜は早く朝になれと願うことがある。小さいときの聖ちゃん、彼女の気持ちは計りしれないほどのもの、なのかな。

そう思うと、かわいそう、そんな気持ちよりなんとかしてあげたくなった。私だって、家に帰ればひとりぼっちだ。でも、明日になればみんなと会える。だから、寂しくない。乗り越えられる。それを彼女に教えてあげたかった。みんながくれた強さを、今度は私が聖ちゃんに渡さなきゃ。

「聖ちゃん!」

ガタッと席を立つ私に驚く彼女。みずきは頭の回転が早いからか、はたまた私のことをよく知っているからか、サッと立ち上がってトレーを持っていく。ありがとう、と目で伝えると、テーブルに置かれた聖ちゃんの手をとった。

「今日は、私の家に泊まりなさい!」

「なー! いきなりすぎるぞ、百合香!」

「先輩命令だよ、拒否権はないから!」

後ろから戻ってきたみずきが、ボソリと言ったこと。私に似てきたわねえ。うん、そうかもしれないな。
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