青春プレイボール!

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私はあの本屋さんに来ていて云々、ここは立ち読みができるから、お財布に信頼のない云々。

相変わらずほこりで装飾されたドアを開けると、おじいさんが今にも落ちてしまいそうなソファーに腰掛けている。いつも通りだ。そのくせ、棚を占める本はほぼ全て新版ときたものだから、頭が上がらない。低い姿勢で彼の前を通り過ぎると、何度目の足運びとなるか、目当てのそこへと身体を送った。

私が一番可愛らしいと思うホーミング娘の女の子が表紙の雑誌。クラスの女の子が格好いいって噂してたっけ、有名なサッカー選手が微笑んでいる写真集。そんなものに脇目をとられる暇もなく、ただまっすぐと進んでいった。

手にとった雑誌をめくると、あった。パワフル高校がある地域の夏大会予選情報。やはり注目度は高く、猪狩くんを筆頭に選手たちが取り上げられている。その中にはもちろん彼もいるわけで。
まっすぐとこちらではないどこかを見ている瞳、その中に私は最初からいなかったのかな。いいえ、なにを考えているの。情けない顔の私にムチを打って、彼を視界から追い出す。今はそっちじゃないんだから。

ページの中を見れば、パワフル高校の順調っぷりがありありと浮かんできた。ここまでの試合はどれも快勝だ。コールド勝ちを交えながら、確実にレベルアップしている彼らに頬もご満悦。自然と顔が喜んでいることに後々気づいた。

しかし、そんな私の笑みを凍らせたのはパワフル高校について書かれたひとつの記事だった。「快進撃の陰で泥沼に陥る女性サウスポー」と題されたそれは、タイトルだけで私の全神経を縫いつけてみせたのだ。
誰、なんて聞くまでもない。私は一字一句見落としてやるかとばかりにその記事を読み始めた。一回だけでは飽き足らず、左下まで到達すればまた右上に戻っていく。

見ればこういうことだった。彼女は、得意球であるクレッセントムーンを磨き、重要な局面で出てくるリリーフエース的存在になるはずだったが、不調が続き変化球のキレがまるで感じられないと。それではアウトも取れないと、登板の機会をめっきり減らされている。

確かにこの夏は負ければ終わり、次はない。それなら不調な選手は使わないに越したことはない、それがチームというもの。わかってはいるけれど割り切ることはできなかった。結局、雑誌を握る手で折り目をつけてしまい購入に至るほど、私の頭は処理を拒んでいた。


帰宅してからもその雑誌をたたんでおくことはない。しかも、パワフル高校の次の相手は覇道高校と来たものだ。つまり予選決勝、夏秋合わせて二度このせいで甲子園に行けていない宿敵。

試合、行こう。誰が私に囁くでもなく私が私自身に囁いた。友沢くんのこともあるけれど、今はみずき。なによ、このザマはと叱ってあげなきゃ。きっと葉羽くんにも、聖ちゃんにも、友沢くんにも、あおいちゃんにもできない。私にしかできないことなんだと根拠もなく思った。
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