一日一アプリ

□チャイムの後に君の名前を
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 俺は、野球が大好きだ。小さい頃から野球だらけの野球漬け、毎日毎日飽きもせずにボールを追いかけ回していた。でも、裏を返せばそれだけなんだ。俺は、ボールしか追いかけたことがない。野球にしか興味を抱かなかったこと、それが思春期真っ只中に俺を縛りあげるとは思ってもみなかった。
 学校に行くと、俺の生き甲斐とも言える野球の前には消化試合が待っている。欠伸を何度か大口開け、時計を何度か見るだけの退屈な時間だ。先生からのお咎めは数え切れないくらいに浴びてきたぞ。
 でも、授業中に必ずやることがあるんだよ。いいや、してしまう、という方が正しいかもしれない。この席から斜め前、そのさらに前にいる女の子。彼女を囲む空気は他の人とどこか違うんだ、鮮やかで華やかで。ほら、こうして彼女の後ろ姿は俺の目を引いては離さない。
 この気持ちがどんなものかなんてのはテレビやマンガで知っている。芽生えたものを自覚してからは簡単。水をやるだけやったわけだから彼女の許可も得ずにグングン成長してしまって、今や立派な実をつけた恋心が俺に根付いてるってことさ。
 だから、もう見ているだけじゃ嫌なんだ。話しかけたい、笑いかけられたい。君への思慕が止まらないんだ。でも、君をどうやって追いかけたらいいのだろう。ボールと同じように走って追いかけたら、君は逃げていってしまうんじゃないかな。
 俺は君のことをなにもわからないし、恋だの愛だの包めたレンアイってやつもよくわからない。それでも、手探りに君と近づけたらいいなと思うんだよ、机何個分かのこの距離が。まずは、そうだな。

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