一日一アプリ

□オンリーマイヒーロー
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 人生最大の危機だと思いました。友達と別れた帰り道、楽しい時間の後でいつもは通らない道を浮足立てていたことが運のツキだったとでも言うのでしょうか。薄暗い小道では怖い顔をしたお兄さん方が丁度よろしくないことをされていたのです。
 彼らは私を何かに調度いいと思ったのか、じりじりとこちらへ近付いて来て。ただでさえ怯えきった私は動けもせず、震え上がるだけでした。
 その時、助けてくれたのがあの人です。風も遅れをとるような速さで、私のことをさらってくれたのです。

「ねえ明雄、初めて出会った時のこと、覚えてる?」
「ああ、名前ちゃんをオイラがカッコよく助けたことでやんすね!」
 それが、彼です。分厚いメガネでも隠しきれないカッコ悪さが特徴の。
「ふふ、そうねえ。カッコよかったかも。あの時だけはね」
「だけでやんすか!?」
「うん」
 ほら、今もひどいだのわあわあ言いながら私に泣きつく男、こんな人がカッコよく見えますか? 少なくとも、彼は世間一般の女性からは相手にされていません。
「もう、カッコ悪いぞ」
「名前ちゃんのせいでやんす」
「拗ねないでえ」
「知らないでやんす」
 そのくせ、器の大きさもありません。子供のようにすぐに拗ねてはそっぽを向きます。カッコよく見えますか? 少なくとも、彼は世間一般の女性からは相手にされていません。
 でも、私はその世間一般から外れているなあと時々思うのです。だって、こんな明雄が誰よりもカッコよく見えて、誰よりも好きなんですもの。あの時だけでなく、今もずっと。手を握られた瞬間から、彼は風と一緒に私のすべてをさらってしまったのですから。
「明雄」
 そんな素敵なところ、私しか知らなくていいと思いませんか?
「大好きよ」
「名前ちゃんっ、オイラもでやんすー!」
「はいはい、知ってるよ」
 私が困った時に駆けつけてくれるこの人は、世界で一番カッコいい。当たり前です、私が嫌というほど知っています。誰も知らない分、ね。

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