一日一アプリ

□彼女はまさにツンデレ
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 クラスメイトの大鐘は不思議な雰囲気を纏っていた。まず家がお金持ちで守られた敷地の中、ぬくぬくと温室で育ったのか、このボンボンは掃除やら係やらの当番事をなかなか着手してはくれない。理屈屁理屈ばかりでのらりくらりと逃げ出すの。その首根っこを捕まえるのが、いつしか私の役目となっていた。
「大鐘! 教室掃除、アンタもやりなさいよ!」私は箒片手だった。
「いいえ、私は先ほどそこに落ちていたゴミを捨てましたので、掃除当番の仕事はもう熟しましたが」
「はあ!? 何言ってんのよ! ゴミひとつ捨てただけでキレイになるわけないでしょ!」
 至極まともな私の方を見て、彼は鬱陶しげにため息をつく。同じ表情を返してやりたいのはこっちの方。何様だこのお坊っちゃまはと口に出さずして毒づきながら箒を押し付けると、大鐘はそれを受け取ろうとはしない。
 さらには、誰かの口車に乗せられた風にも見えない、さも当たり前のこと、太陽が東から昇ることを口にする時と何ら変わりない口調でこんなことを言い出した。
「それに、飽きてしまいました」
「飽きた?」
「ええ。これだけの人間が生活しているから明日にはまた汚れてしまう。それに、毎日やらねばならないという法もありません」
「……はあ?」
 コイツの言うことは理解し難い。それは前から思っていたことだけれど、これほどまでとは。
 私は憤りを通り越えて呆れてすらくる。いいや、それを越えてやはり腹が立つ。どちらかといえば労力を使わない方の感情に向いてくれた方が楽なのに、私の身体はどうも燃費が悪い。
「アンタね、みんなやってるのよ! 申し訳ないとか思わないの!?」
「いえ、みなさんは何も仰らないですよ」
「それはみんな、大鐘に呆れてるのよ」
「では、名字さんもそうすればいいじゃないですか」
 彼はまた顔を変えずに聞いてきた。嫌味を言うでもなく事実を淡々と述べられたと思った。ディベートに近いこの感覚、私は見事に答えに窮してしまったんだ。
 しかし、彼は人が悪い。そんなディベートに私情はなんの力も持たない。文字数を稼ぐくらいにしかならない。それなのに、素知らぬ顔で私の心に言及してきたから。
「大体、名字さんはなぜ私にそこまで突っかかるのですか?」
「そ、そんなの……」大鐘に押し付けていた箒を引き戻した。
「自分で考えなさいよッ! バカ!」
 ああ、このバカは。本当に腹が立つ。コイツの前じゃ、エネルギーを使い放題だ。みんなが言わないから言うのよ、私だって暇じゃないんだから。煮えくり返る思いをぶつけて、私はさっきまで彼に掃除をさせようとしたくせに、いよいよ背を向けた。
 きっと、この矛盾にすら大鐘は気づかない。そして、私も気づかない。一緒に掃除をしているクラスメイトがみな満場一致で「わかりやすい……」と思っていたなんて。

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