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□未知の力は誰の手に
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 あかつき大附属高校野球部グラウンドにて、汗水飛ばしながらきつい練習に耐える面々がいた。その風景は、もはやどこのグラウンドにもあるものなのかもしれない。しかし、その中でただひとり、メガネを光らせて部員たちを見渡す人がいる。
 彼はこの強豪野球部でもデータをまとめる男として一目置かれている存在、つまり部の重役、要よ。それならばこの私は彼のサポート、つまるところあかつき大附属高校のデータ野球を支える陰の女ってこと。それってつまり最高にクール、私にピッタリってやつ……だというのに、これはなんなのよ! 私は目の前にいるあかつき随一のデータ男から冷たい目を投げつけられていた。
「お前はまた絵空事を」
「なっ、絵空事じゃないわよ! 私にできないことなんてないわ!」
「名前のような頭の弱い娘がそうなれるのなら人生苦労はしないな」
「フフン、私が天才だから嫉妬しているのね?」
「天才はこの部にひとりいれば十分だ」
 静かに閉じられたパソコンと共に人差し指でメガネを引き上げたこの男こそ、噂の四条賢二だ。別名、私の彼氏。あっ、私みたいなスーパーウーマンと賢二がつり合わないから嘘だと思った人、いるわよね? それが本当なのよ。
 この私、名前様を口説き落とした男としては認めてやるわ。でも、彼はプライドが高いものだから男として私より上であろうと必死なのよ。フフ、才色兼備も考えもの。凡人のあなたには縁違いなお話だったかしら。
「で、で、賢二。今日は誰の練習を見てくればいいの? 六本木くん? 八嶋くん?」
「……六本木は俺が見ておくから、七井、八嶋、九十九あたりだな」
「外野組ね、ようし!」
 メガネ越しに期待をかける瞳を向ける賢二。そこには神算鬼謀がさらなる奇策を見出すべくして、私をと縋る色が見え隠れしていた。黙っていてもわかる、彼はなんだかんだといっても私を拠にしていると。
 それならば私は、賢二のパートナーとして彼の名前に泥を塗るわけにはいかない。パソコンを再び開いた彼は、他にも彼にしかできないことを考えついたのだろう。
「じゃあ行ってくるかな!」
「ああ。……期待しているぞ」
「任せてよね!」
 意気込み揚々と飛び出す私に賢二から薄く笑う声が贈られる。それがまるで私への信頼の形のようで、とても心地がいいの。きっと、彼の力になれているんだってね。

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