一日一アプリ

□陽炎に溶けるは
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 ヴァンプ高校に入学した私は、大切なお友達ができました。それは神良美砂ちゃん。とても肌が白く、美しい女の子です。私は彼女と一緒に学校で勉強して、休み時間にお話して……あっ、でも美砂ちゃんは頭がいいからか授業中はあまり勉強をしていなかったような気がします。
 彼女は野球部のマネージャーをしていました。彼女お気に入りの部員さんが言うには、美砂ちゃんはマネージャーなのに部員さんをこき使うんですって。しかし、ここ最近はなぜか美砂ちゃんの様子が変だったのです。
 やがて、美砂ちゃんは学校に来なくなりました。野球部はめでたく甲子園に行ったので、てっきり私は美砂ちゃんもそこに向かっているのだと思っていましたが、どうやら違うようです。風邪でもひいてしまったのでしょうか。お節介とはわかっていながら、私も彼女の友達です。気にならないはずがありません。そこで、過去に一度だけ連れてきていただいた美砂ちゃんのお屋敷にお邪魔することにしました。
 そこに彼女はいました。が、お屋敷の中ではありません。お屋敷の外です。私を見るや否や、美砂ちゃんは表情を激しく曇らせました。怒りのようにも見えて、身震いした私に彼女は一言だけ呟きました。が、そこから私は何も覚えていないのです。気づいたら、自宅のベッドに横たわっていたのですから。
 それから時は経ち、野球部は見事に甲子園にて優勝を果たしました。ヴァンプ高校は創立間もないというのに大変な名誉です。
 後日、通学路の交差点で出会ったのは今や学校での英雄、野球部の方です。なぜだか彼には印象が深く張り付いていました。おそらく、話したこともないというのになぜでしょうか。彼は私を見ると、英雄でもなんでもない一般生徒だというのに足を止めてくれます。
「あ、キミは……」
「野球部さん、ですよね」
 彼は驚いたような顔をした後、穏やかに微笑みました。ゆっくりと、時間をかけて。眉まで下がっています。
「優勝、おめでとうございます」
「うん、ありがとう」彼が自身の腕をそっとなぞりました。
「みなさんのおかげで、忘れられない夏になりました」
「……うん」
 もう一度、腕をなぞりました。彼の指が離れたそこには綺麗な輪がかけられています。なんだか見覚えがありますね。
「俺も、忘れられない……いや、忘れちゃいけない夏になったんだ」
 彼の腕に雫が一滴、落ちてきました。腕ばかり見ていた私が顔を上げると、あの優しい笑顔のまま、彼は一筋だけ涙を流していました。

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