一日一アプリ

□僕を照らして太陽娘
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「ひかりちゃん、これ任せてもいい?」
「わかりました!」
「ありがとう!」
 まただ、小さな瞳をくしゃりと微笑ませる彼女は部員からいらぬ仕事を押し付けられている。そのくせ、その部員とやらは虹谷さんのところに行くのだから許しがたい。私はソイツの首根っこをつまみ上げて遠く彼方へ投げ捨ててやった。うりゃあ! と女の子らしかぬ掛け声も厭わない。もともと選手だから気にする必要もない。
 それなのに彼女は、精々する素振りも見せずにむしろ投げられて当然の鼻水つけたちり紙みたいな部員先輩を心配している。これでは私が悪者のようだ。しかしまあ、悪者はアイツで満場一致、間違いはないだろう。
「名前ちゃん、先輩だよ!」
「へっ、知ったこっちゃないね!」
「怪我しちゃったらどうしよう……」
「野球できない身体になってしまえってーんだ!」
 私は彼女の分まで舌を出す。歯を食いしばって苦虫を噛み潰す。しかし、彼女は私の肩に手を置いて首を振るんだ。そんなことを言ってはいけないってね。
 彼女は優しい、優しすぎる。男はバカだ。こんなに魅力的な女の子がいるのに、外見ばかりがいい虹谷さんに群がる。彼女には役割を押し付けるくせに、虹谷さんの役割は手伝ってやる。別に、虹谷さんのことが嫌いなわけではないけれど、この子が理不尽なものだからこちらも理不尽な怒りをまんま勝利の女神にぶつけるしかない。
「イーッ! 虹谷さんに相手にされてないくせに!」
「名前ちゃん、ダメだよ!」
「なんで? ひかりんのことバカにしてるよアイツ!」
「いいのいいの! 私は元気が取り柄のマネージャーだもん!」
 無理した様子を微塵も見せない彼女が、心の底から裏などないことなんて明らかだった。このよく笑う少女が勝利の女神にはなれやしないの? 綺麗な人がエンジェルって誰が決めたの? 私は先輩が飛んでいった方向へ唾を吐きたくなる。いや、もう吐いちゃった、ペッてね。
「ひかりん!」
「うん、なあに?」
「私はひかりんから一番パワーをもらってるよ!」
「……名前ちゃん、ありがとう!」
 綺麗な人、可愛い人、お金持ちな人、なんだかものすごく愛が重い人、怪我の手当がとても上手な人、色々なエンジェルがいる中、笑顔が一番元気いっぱいで誰よりも私を明るくさせてくれるのは間違いなく彼女だ。その溢れんばかりの魅力、どうせ先輩たちなんて気づいてしまえばメロメロになっちゃうんだから!
 私は今日もいじらしい思いにやきもきしながら、目の前の満点笑顔にいってくるとグラブをつきあげる。他の誰に言っても優しく手を振ることしか返ってこないけれど、彼女だけだ。こうして同じく青空に腕を掲げるのは。

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