青春プレイボール!
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「百合香ー」
「…………」
「百合香ってばー」
「…………」
「百合香?」
「……ぐすっ」
「えっ、ちょっと、どうして顔を覆うの! 泣いてるの!?」
東野百合香、ただいま心を傷めて泣いております。いや、心を傷めたのは私ではないのですが。
「みずきいぃ」
「あー、はいはい。なに、どうしたの? 珍しいわねー」
投球練習の合間、休憩している彼女にしがみつく。周りの部員さんはいつもと真逆の様子に愕然。みなさん手が止まってますよ、私のことは気にしないで練習してください。
「と、友沢くんの……」
「友沢の?」
「…………」
「百合香?」
「……言えないよぅ!」
みずきにしか聞こえない声で話そうとしたけれど、そう。とても人には言えないようなことで悩んでいます。はずかしい。あ、むっとしている。……そうだよね。相談にのってくれてるのに、話せない、なんて。
「あ、そうだ。本人に聞けば」
「それだけはやめてえぇぇ!」
こんな百合香ちゃん初めて見たー。部員さんたち、それくらい必死なんです、わかりますか。というか練習してください。見世物ではありません。
「ひくっ、えぐっ」
「わ、悪かったって。泣かないでよ百合香……」
「みずきちゃんが百合香ちゃん泣かした……」
「本当だ……」
「違うわよ!」
悩み事をかかえたまま、足取りは重い。ため息もつきまくり。ここ最近、教室の中でもろくに人になにかを話してないかも。聞いてばかり。なんとかしなきゃなあ。机にほおづえをついていた、休み時間のことでした。
「百合香!」
「みずき……。どうしたの?」
「じゃーん!」
「えっ、それ……。す、すごい! 有名なお店だよね!」
「百合香と一緒に行きたいなあ」
ハイテンションなみずきが差し出してきたのは、有名な料理店のディナー無料券。私だって、都会に来る前から名前くらいは知っていた、そんなお店。嬉しいお誘いに、雲のすきまから太陽がのぞいたよう。
「いいの? 嬉しいな、ありがとう」
「いーって、いーって。じゃあ18時にお店に入ってて!」
「え、一緒に行かないの?」
「あー、ちょっと用事があって。ほら、予約しとくから、取り消しになったら困るでしょ?」
「ああ、なるほどね」
しかも、用事が入っていながらも連れていってくれるらしい。本当にステキな親友だ。きっと、話でも聞いてくれるのだろう。……私も、彼女に話せるようになってなきゃ。くもりぞらはいつのまにか消えている。みずきと出かけられる楽しみ半分、言わなきゃと思う緊張感半分に、なんとも表現しづらい顔をしていた。