青春プレイボール!

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「……え」

「いや、その、だから……で、デート、しないか」

「ほ、本当に友沢くん……?」

「……東野、お前は俺をなんだと思っているんだ」

「あ、えっと、そういうわけじゃ……」

「……それじゃ、駅前に1時ごろ来てくれ」

そんな電話があったのが、朝のこと。
ふたりでデートなんて、そんなお誘いは受けたことなくて、しばらく固まってしまった。

「もう、私のバカー!」

駅前までダッシュ。今の私。時間は1時ちょっと過ぎ。遅刻です、ええ。髪を巻くことも、メイクも、なーにもできなかった。ああ、ほんっと、ほんとーに数時間前の自分、ビンタしてやりたいです。しっかりしなさい。

しかも、困ったことに。

「東野さん!」

「く、久遠くん!?」

久遠くんに会ってしまった。足を止めずに押し切ろうかと思えば、相手は野球部の男の子。そうはいかない。

「ねえ、どこに行くんですか?」

「えっ、あ、えーと、へへ……」

よ、横に並ばないでえええ。そんな思いもむなしく、私なんかのスピードじゃ振り切れずに、輝かしい笑顔を送ってくる久遠くん。彼も連れて駅前に行く?いや、それはなんか……うん、どうしよう。とにかく、駅前に行こうとした道を慌てて進路変更。それでも着いてくる。お願い、もうただでさえ遅刻なんだよ久遠くん。

「東野さんってばー」

「……友沢くんのところ」

「えっ、友沢さん!? 僕も連れて行ってください!」

「う、うん。わかった」

くっ、背に腹は代えられない。このままじゃ、友沢くんといっしょにいられなくなっちゃうもん、ね。友沢くんに、遅れたことの謝罪と久遠くんが来ることのメールを送る。
ふたりでいたかったなぁ。……そんなこと考えちゃ、久遠くんに悪いか。ふたりより、3人の方が楽しいこともたくさんあるよね。
ルンルンな久遠くんを見ていたら、こんな日も悪くないなぁって思うし。なんだか弟ができた気分になって、目を細めていると、久遠くんがそういえば、とこっちを見た。

「そういえば東野さんって、友沢さんと付き合ってるんですよね?」

「うん……まあ、一応」

友沢さんは東野さんなんかと釣り合わない。そんな感じのが来るか、来るか?少し躊躇いがちに微笑んでみせると、久遠くんは予想とは違って、顔を明るくさせた。

「ふふ、そうですか。友沢さんの弱点は、東野さんなんですね」

あれ、満面の笑みでなんかすごいこと言ってないかな、このひと。久遠くんって、腹黒いの?あれ?見なかったことにしつつ、駅前に向かうと。あら、友沢くんの隣に人がいる。けれど、遅れたのは確かだから、と小走りで駆け寄った。

「友沢くん、ごめんなさい!」

「東野……と、久遠?」

手を合わせると、友沢くんが怪訝そうに私の横を見た。久遠くんはこんにちは!と相変わらずの笑顔。メール、見てないのかな。

「久遠くんと途中で会って、一緒に行きたいって。……そういえば、そちらは?」

目が合うと、彼はぴっと姿勢を正した。かわいらしい男の子だな。礼儀もしっかりしてる、好青年。

「僕、瞬鋭高校野球部、1年の小平陽向といいます!」

「小平くん、ね。私はパワフル高校2年の東野百合香です」

どこかかわいらしい雰囲気もあわせもった小平くん。彼と握手をすると、なぜか久遠くんが横からその手を断ち切った。な、なぜ。びっくりしていると、久遠くんはむくれて小平くんを見ている。

「ダメだよ、東野さんは友沢さんの彼女なんだから」

「あ、あくしゅしただけよ……」

「……久遠はこういうところがあるからな、許してやってくれ」

あぁ、これが久遠くんの友沢くんに対する敬意なのか。彼にとって、敬愛する友沢くんの彼女、私もまた、悪くは思われてないみたい。一方、小平くんは大丈夫かしら。視線をずらせば、怒っているどころかキラキラ。あれれ。

「東野さんって、友沢さんの彼女なんですか!?」

「えっ、は、はい一応……」

「……一応ってなんだ」

「そうです、彼女です」

ごめんなさい。友沢くん、そんな怒った顔しないで。久遠くんは頬を膨らませてるし、なんだっていうんですか。話についていけない。小平くんも小平くん。なんで、そんなに嬉しそうなんですか。

「友沢さんの彼女さんなら、きっとすごい人なんですよね!」

「そんなことないです、凡人です」

「当たり前だよ! 東野さんは部員全員の晩ごはんをひとりで作っちゃうんだから!」

「久遠くん、しっ」
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