青春プレイボール!

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パワフル高校野球部の、夏がやってまいりました。ここ最近、マネージャーも部員も、先輩たちはバタバタしている。来年は私たちか。なんて、のんきなことを考えていた。
そんなこんなで迎えた夏の地区予選。もうかれこれ準々決勝まで登りつめて、今日は瞬鋭高校との試合。ここまでとなれば、お客さんの入りもかなり豪勢で。きっと、去年卒業した先輩たちもいるんだろうな。

「オイラたちと同い年のピッチャーが先発みたいでやんすね」

「あっ、あいつ。去年偵察した時に俺たちをバカにしたヤツじゃないか。くそーっ、あいつはスタメンなのに、俺はスタンドで応援かよー!」

「先輩、見苦しいぞ」

「そうですよ、今は応援に集中しましょう!」

「葉羽くんより、聖ちゃんと久遠くんの方が先輩らしく見える……」

「は、葉羽くんならきっと、すぐレギュラー、とれますよ」

スタンドも、わいわいがやがや。一番前。すごくいい席で、グラウンドを見つめた。もうすぐプレイボール。今日の先発は、あおいちゃん。後ろには、みずきも猪狩くんもいる。緑色の髪がここから見える。ぐるぐる回されるまっしろな腕。……本当に野球やってるのかしらって思っちゃう。がんばれ。胸の前で手を重ねた。

試合が始まる。
サイレンの中、コールとともにバッターボックスに立った男のひと。あの人、もしかして。その姿に、私ともうひとり、信じられないとでも言いたげに目を合わせた。

「い、1番に小平くん!?」

「……あいつ、レギュラーなんだ」

驚きながらも、闘志を燃やす久遠くん。こらこら、フェンスに掴みかからないの。諭しながらも燃え盛るそれは、大切にして欲しくて。

「久遠くんも、がんばらなきゃね」

「はい! 僕の方がすごい選手になりますよ!」

「……ふふ、そうだね。対面する時が楽しみだな」

小平くんはチームに球を見せるつもりなのか、なかなか振らない。1年生ながら、自分の仕事をわきまえていて。高めに入った変化球をレフト前に落とした。まずは、といったところ。足元に手を伸ばすあおいちゃん。恨めしそうな顔。

「百合香ちゃんと久遠くんは、あのランナーを知ってるんだ」

「うん、友沢くんの知り合いってくらいだけどね」

「……けっこうリード取るね、あの人」

「しかし、走る気はないぞ」

「聖ちゃん、すごいね。わかるんだ」

「百合香みたいに鈍くないからな」

「う、返す言葉もない……」

「冗談だ」

真顔でそんなこと言わないでほしい。聖ちゃんに苦笑いしていると、サードゴロで仕留めた。よし、ゲッツーコース。……だと思ったのに、小平くんは二塁にいて。彼は、どうやら一筋縄ではいかないらしい。
結局、初回は1点を取られて攻撃開始。ベンチに戻ってくるあおいちゃんは上から見ても浮かない顔をしていて。進くんが声をかけてたけど、大丈夫かな。……いえ、大丈夫だよね。だって、この夏の練習で評価された、2番に進くん、4番に友沢くんがいるんだもん。
自然と絡められた手。祈る気持ちで試合を見守る。相手の先発、2年の烏丸くんによって先頭打者は見逃し三振。けれど、進くんは左中間まっぷたつのツーベース。一死二塁のいい場面で、3番にバトンタッチができている。
あおいちゃんに、どうか。願うような気持ちで見ていれば、烏丸くんがフルカウントからもったいないフォアボール。
サークルから立ち上がった4番ショート、友沢くん。

「4番、か」
 
「久遠くん?」

「いえ、やっぱりすごい人だなって……」

そんな目をしてないじゃない、久遠くん。無意識に、彼の手をきゅっと握りしめてしまう。

「東野さん……」

「悲しそうな顔しないで、ね」

「……あなたは、友沢さんの弱いところ、知っていますか」

「え……」

私にしか聞こえない小さい声、冷たい目になったと思った。

「へへ、東野さんかな」

「く、久遠くん……?」

「友沢さん、東野さんのことになると周りが見えなくなっちゃいますしね」

「あ、それわかる! 百合香ちゃんが絡むと、厳しくなるよな」 

「そうそう。オイラなんてマッサージしていただけなのに、すっごく怖い顔でお礼を言われたでやんすよ」

「先輩、あれはセクハラだ」

「百合香ちゃん……愛されてるんだね」

久遠くんの表情は、いつも見ている穏やかなもので。けれど、確かに。あの顔を私に向けていた。小筆ちゃんのへにゃりとした幸せそうな雰囲気とは対照的に、できたことといえば、乾いた声で流すことだけ。
鋭い音がした。外野まで飛ぶと思われた打球は、小平くんのダイビングキャッチでセカンドライナー。突然のことに戻れないファーストランナー。

あの友沢くんが、併殺だった。
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