青春プレイボール!

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夏大が終わって、パワフル高校には変化が訪れました。
まずは、高校が夏休みに入ったこと。これで、部活がある日は朝から晩まで。私はマネージャーだから、言えたことじゃないけど、選手は本当に大変そう。おつかれさまです。
それと、先輩方の引退。これにより、葉羽くんと矢部くんが一軍繰り上がり。一年生からは久遠くんと、聖ちゃんも。
他にも、猪狩くんがライジングショットを解禁。そのうえ、さらなる改良を試みたり、みずきが聖ちゃんに受けてもらうことが多くなったり。

私は、マネージャーとして役目を果たしながらも、小筆ちゃんとノートを作るのに尽力しています。

そして、今日は練習がありません。振り返ってみれば、夏でバタバタしていて、とても久しぶり、休みの日。朝の9時に起きるという寝坊っぷりを披露して、まだ眠っている目をこすっていました。

本屋さんにでも、行こうかな。だらけた顔に水をかけて起こす。そうだ、料理本でものぞいてみよう。レパートリーも増やしたいし。
思い立ったら、すぐ支度しよう。なんてったって、なかなかない休日。時間は限られてるぞ。

寮も目の前にあるし、この辺は高校の友だちもいるかもしれない。なんてね。みずきからもらった服を、一式取り出す。へへ、これが着たいだけです。
冬に買ったものにしては、うすいブラウスとスカート。夏でも着れるから、今では愛用品となったそれに袖を通して。あとは三日月のイヤリングをたらす。すっかりみずき色に染まってる気がして、笑いがこみ上げてきた。

のぼりはじめた気持ちを抑えきれずに家を出ると、駅の方まで向かう。いつものお出かけ場所だ。
せっかくだし、お昼ごはんもどこかで食べてこようかな。あぁ、でも、本屋さんで見たメニューを作ってみるのもありかも。

いろいろなことを考えながら歩いていると、目の前からジャージ姿で走る人影。マネージャーのクセなのか、精が出るなぁと感心してしまう。
あれ。でも、よくよく見たらあの人って。
だんだん近くなるその人は、私の知っている人だった。ランニングの最中なんだから、話しかけちゃ迷惑だよね。そう思ったけれど、彼は私に気づかないほど、なにかを考えているのか、悲しそうな顔で走っているものだから。つい、手が伸びた。

すれ違おうとした肩にふれれば、こっちを向く深い柿色の瞳。

「東野さん!」

「こんにちは、星井くん。呼び止めてごめんね」

「いや、大丈夫だよ。ただの自主練だからさ。そっちはどこに行くの?」

「今日は練習がないから、本屋さんに行こうと思って」

「へぇ、東野さん、本が好きなんだ」

「本ってより、レシピ本を見ようとね。料理が好きだから」

「そうなんだ、家庭的なんだね」

星井くんは、かけてあるタオルで顔を拭って微笑む。こうして優しいところは、やっぱり幼なじみの葉羽くんによく似ていて、なんだか安心できるな。

「覇道高校は、二年連続で甲子園出場だったよね。おめでとう」

「ありがとう。……ごめんね、東野さんにそんなことを言わせて」

「ううん、私が純粋にお祝いしたいだけだから。がんばって、覇道高校ならいいところまで行けるよ。木場くんもいるし!」

私はぐっとこぶしを握って見せたけれど、星井くんは走っている時に見たような、寂しさを醸し出してしまった。
悪いことを言ったのかも。あわててそういえば、と下手に話題をすり替える。それでも、彼の様子は優れなくて。私は、目を下げることしかできなかった。

「ごめんなさい。なにか、気にさわるようなことを言ったみたいで」

「いや、東野さんは悪くないよ。ただ、僕が弱いだけだから……」

やっぱり、ランニングをしていた時のあの顔は気のせいじゃなかったみたい。それでも、星井くんが私の休日は潰せないと言うものだから、足だけは本屋に向かっているのだけど。

あの時の猪狩くんみたいに、少しでも気分転換できたらいいな。
ひとりで考え込んでたら、いいことなんて、きっとない。

「私でよければ、話したいこと話して」

「でも、東野さんはパワフル高校の人で……。」

「もう、敵である前に葉羽くんと同じ野球部なんだから。気軽に話してよ。」

なかなかしぶる星井くんが以前言っていたこと。それをそのまま伝えると、意図に気付いた彼が、小さく口角を上げた。そう言われちゃ、なにも言えないよ。そうですよ。
じっと彼を見つめると、まずは目的の場所だと言われてしまった。
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