短編

□おくすり、ダイジョーブ?
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「ダイジョーブ博士、本当にダイジョーブ?」

「ダイジョーブ、デース!」

 ダイジョーブ博士のラボに来ている私は、目の前に出された小さな小瓶を手にした。揺らすととぷとぷと音を立てる赤い液体。博士いわく、惚れ薬。これを飲んだ者は、最初に見た人を必ず好きになるという。恋する乙女必見アイテムなのだ。
 これを使ったら、あの進だってフツーじゃいられないんだから。私にゾッコンになるぞ。そしたらね、いつもこども扱いされている分、たーくさんラブラブするの! よし、がんばろう!

 ラボを出て、帰宅。すぐさま進を家に呼び出した。彼が来る前にコーヒーを淹れて、片方のカップに惚れ薬を忍ばせる。おお、赤いはずなのに、まったく色がわからない。

「名前、こんにちは。用ってどうしたの?」

「進、待ってたよ! あがってあがって!」

「うん、お邪魔します」

 ナイスタイミングだ。進も来たし。どうぞ、と招き入れてコーヒーをテーブルへ並べる。こっち側が薬入り。それなら、私はここに座ろう。

「わあ、コーヒー淹れてくれたんだ?」

「うん、そうなの。どうぞ」

 進が、カップに手を伸ばす。口を付ける。そして、の、飲んだ。私はカップを取ることもせず、進をじっと見つめていた。彼は、しばらく喉を鳴らしたのち、私にほほえむ。おいしい、と言った進は、いつもどおり。あれ、あれ?

「ん、どうかした?」

「い、いや……」

 おっかしいなあ。ダイジョーブ博士、失敗しちゃったのかも。あきらめて、私もカップを持ち上げた。その時、進がへにゃりと目尻をおとして、私を見つめた。

「ふふ、変な名前」

 かしゃり、私の手からカップがすり抜けて、テーブルに落ちた。割れはしなかったものの、コーヒーをぶちまけてしまう。「名前!?」と進が立ち上がったけれど、それどころじゃない。手で耳を覆って、足を擦り寄せる。
 な、なにこれ、身体がゾクゾクする。私の名前をつぶやく彼の口元に目がいった。ああ、コーヒーを飲んだ後だからかな。てらてらしている。……おいしそう。ゴクリとつばを飲み込んだ。ああ、どうしよう……へんな気持ちになっちゃう。

「だ、大丈夫!?」

「……だ、めえ……話さない、で、こっち、見ないでえ……っ」

 ついに、椅子から倒れ込んだ私。進が、私の肩に触れた。そのとたん、腕で自ら抱きしめた。だって、まるで身体中にハチミツをたらされたような甘美さがあったから。
 しかし、進はそんな私から目を逸らそうとしない。じっと見つめてきて。その目にすら、熱を持つ。

「名前……」

「や、やめ、て……」

 彼が、私に覆いかぶさる。綺麗なむらさきいろの瞳が、私の脳をぐわんぐわんと刺激して、離さない。息がはあ、はあ、と声とともにあふれると、進がそれを吸い取った。ついさっきまで、美味しそうだと思っていた、進の唇が、私に触れている。足をくねらせずにはいられなかった。

「ん、ふあ……」

「はあ、名前……」

「だ、だめよ、進……」

「名前、僕だって、男だよ……」

 彼の目が据わってる。ぐっと近い。また、唇をさらわれて、身体に巻きつく私の腕を解かれて。進の吐息が、頬に当たって、もう、限界だった。気づけば、彼にもっと、もっと、とすがっていて。じっくり、めいいっぱい愛してもらったのだ。テーブルに散らかったコーヒーは、すでに冷めきっていた。

 後日、ダイジョーブ博士のもとへ向かうと、惚れられ薬を渡してしまったと言われた。なんてこと。大変じゃないの。いたむ腰を押さえながら、頬を膨らませたのだった。
 

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