短編
□春は焼かれた
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やわらかい春の日差しと、眠気を運んでくる風。ここ、窓際後ろの席は私の指定席であり特等席だ。私たちを見てよと微笑むのどかな風景に先生と黒板の単独プレーが勝るはずもなく、ひなたぼっこを満喫していた。一面銀世界のノートは私の肘置きに過ぎない。
今日もいい天気だなあ、授業なんかより外に出て遊びたいよ。
ゴボウに頭がついたような後姿。生真面目なメガネを光らせて、チョークから粉を踊らせる先生には口が裂けても言えないこと、それを見下ろす校庭にボヤいた時だった。
私からみっつ、よっつくらいの距離がある机がガタンと動いたのだ。先生のお立ち台にはひどく不協和音。そこへ、教室中から目が矢のようにぐさりぐさりと刺さるのは無理もない。
クラスの男の子だ。えっと、たしか野球部の。彼は真っ向から先生にケンカを売っていた。机となかよしこよしで、起きる気配もなく「まんるい、ホームラン……」なんてだらしない口の端から漏らしている。ついでによだれも。その世界はきっと、彼がお立ち台なのだろう。
もちろん、それを投げておくほど慈悲深いメガネ教師ではない。青筋を立てながらその名前をヒステリックに叫ぶと、ようやく夢の舞台から引きずり降ろされた男の子。ごめんなさいと縮こまる姿に、クラスではドッと笑いの雨が降りしきる。彼はいわゆる、クラスの中心人物なのだ。
一方の私は傘をさして、その様子を眺めていた。
その日の放課後、部活に入ってない私はもう帰ろうかと鞄片手に校舎から離れていく。すると、聞き覚えのある元気なかたまりが飛んできて私を直撃。彼の声だ。意識のかけらもなく顔を向けると、人一倍大きな声で野球のボールを追いかけるその姿がいた。
授業中に見たこともない真剣な眼差し、ふうと息をつめこむまっかなほっぺた、それが割れたと思ったら迷いなく泥だまりに飛び込んで。ついきゅ、と目に蓋をしてしまった。
しかし、次に彼が見せたのは全身をまっくろけにしているくせに、にっかりと太陽が輝くような笑顔。唯一白い歯が浮いて見える。同時に、野太い賞賛の声があちらこちらから湧いてきて、可愛らしいマネージャーさんがタオルとともに駆け寄っていく。女の子が好きなのだろうか、にへらあと破顔した時にはいつものクラスでの彼に戻っていた。
でも、私には彼が大きく見えて。授業中によだれを垂らして幸せそうな夢に浸っていたあの人と同一人物とは考えがたい。
彼が、高校の名前がでかでかと書いてあるユニフォームを着た男の子たちと手を重ねて喜ぶ。私は、その満ち足りた微笑みから目が離せなかった。止めた足も、もう動きそうにない。
ふと、捕まれた視線をそらせずにぼんやりと頬に手を触れてみれば、日差しにやられたように熱かった。まだ夏は先なのに、今年はもっともっと暑くなりそうだとため息まじり。なおも彼は仲間たちの中でひときわ光っている。